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パラレル物
どんな世界に生まれても
闇の中から女の声がする。

「あっ……あv……あん…v」

声の質から、まぐわいの最中である事は簡単に解る。
その場を去ろうとしたカエデは、次の声で立ち止まった。

「あっ……イイわっv……アキラ…ッ……」

その名につい、その場面を覗いてしまうと、最愛の男がサキュバスとセックスのクライマックスだった。
豊満な乳房が揺れて肢体が仰け反り、絶頂を迎える所だ。

思わず立ち去る事で、カエデはその場から逃げ出した。


与えられた部屋のベッドに突っ伏して、シーツを掴む。
自分の中でドロドロとした感情が渦巻いた。

魔物に一夫一婦、否、一夫一夫の縛り等ない。
別に気ままに誰を抱こうと自由なのだ。
でも、アキラには他の者を抱いたりして欲しくない。
カエデは自分の中の束縛の心が辛くなる。

淫魔の自分なら、その気になれば縛り付ける事は出来るのかも知れない。
けれど彼は人間ではないから虜にはならないのだ。
勿論、若干はチャームが作用している様子だが、あくまで互いを盛り上げるものでしかない。
それに、魔力で振り向いて貰ったって嬉しくない。
彼自身に愛して欲しい………

魔の者に愛などと、せせら笑われるかも知れない事だが、自分達はそれを知ったのではなかったか。


するとふわりと空気が動いて、彼がやってきた。

「何だ、おまえもシたかったのか?」
「…………!」

彼の目は野獣の様な、それだけではない何処か邪悪な光を灯していた。

「……嫌だ、触るな!」

パシンという音と共に、フッとその映像は消えた。
気が付けばベッドの上で、今のが夢であったとカエデは悟った。


「……ちくしょー……何て夢だ……」

アキラが他の者とシている所など、自分は見た事がないし、そんな気配を感じた事もないのだ。
自分は勝手に不安がっているのかと、自らを嘲笑したい気分だ。

すると部屋に入ってきた王宮の主の声がした。
「どうした?」

カエデはそちらに向くと、穏やかな想い人……否、魔物だが───が、ベッドに近付いてきた。
咄嗟に彼に抱きついてしまうと、柔らかく抱き返してくれる。

「何だ、イヤな夢でも見たのか?インキュバスって夢魔でもあるんだろ?」

揶揄う様に言われても、何も答えられない。



「…………うん?」
何だろう、ほんの僅かな違和感。
アキラは眉を顰めた。
身を守る為にも、そういう違和感は見逃さない様にしてきた。

「カエデ……おまえ、最近変わった事とかなかったか」
「?」

カエデは顔を上げて、少し考える。
「別に、毎日アンタと暮らしてるだけで……さっきの夢が、変わった事って言ったらそーかも知んねーけど」
「どんな夢?」

途端にカエデは真っ赤になるから、淫夢だったのかとも思うのだが、仮にも彼自身が淫魔なのだ。
「淫夢?おまえに?」
思わず口に出していたら、カエデはムッとして応える。
「オレ自身じゃねー」

暫くアキラは考えて、カエデの前髪を指で梳いた。

「オレ、おまえを不安にさせてるか?」
「───んな事ねー!」

多分自分自身の問題だろうとカエデは思う。
初めて知った愛情は、執着すらも覚えてしまったから。

好き過ぎて胸が痛い。
そんな事、絶対に言えない。

そうしたらアキラにやさしくキスをされて、カエデは目を閉じた。

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あきゅろす。
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