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パラレル物
SA・I・I・N
夜は更けて、月明かりの下に王宮が浮かんでいた。
王宮と言っても、そこの主と使用人が数人居るだけの閑静な佇まいだ。
そんな場所の、庭に出てきた男が一人。

それは端正な彫りの深い顔をしているが、細長い角が二本、頭に生えていた。
黒装束ではあるのだが、マントの飾り部分が紫で、逞しい胸が曝されている。
胸元には4連のプラチナの飾りに、下2連には菱形の薄青い水晶が施されたネックレスをしていた。
やはりプラチナの細工を施された腕輪を手首にしていて、それらは彼を引き立たせているが、華美にはならない。
下半身は黒一色のパンツとブーツだ。


「……今日はストロベリームーンなのか……」

夜空に浮かぶ、紅みのあるピンク色の月。
好きな人と一緒に見ると、永遠に結ばれるなんて言い伝えがあるが、自分には意味のない事だと男は思った。



カサリと音がして振り向くと、闇から現れてきた魔物が一人、自分に近付いてきた。

「へぇ……インキュバスか、珍しいな」
珍しいというのは、自分の所に現れるのはという意味だ。

それはしっかりと筋肉のついた、細身ながらに逞しい男の姿だが、顔は整っていて、一重ではあるがキリッとした瞳が印象的で、紛う事なく美形だった。
カーブした二本の角と淫魔独特の尻尾が生えている。
チョーカーから縦長のハートの飾りが付いていて、上半身は服とも言えない、テープを何重にも巻き付けたみたいなのを身に着けていて、薄紅い乳首が曝されている。
下半身は男根を覆っているだけの小さな布に、細い二本の紐が回っていて、尻には布はない。
そのくせブーツは太腿の中程まであって、飾り穴の付いた二の腕の真ん中位から手首までの袖の様な物を着けていた。


「何か用か?」
男は淫魔に訊いた。
すると彼は心地好い低音で応えた。
「アンタに……習って来いって言われた」

やけに説明が短いので、訊くしかない。
「誰に?何を?」

「……長老に。何をってそりゃ……ヤル事だ」
淫魔がヤル事と言うならセックスだろう。

「……相手違うんじゃねーの?サキュバスなら何人か相手した事あるけど、おまえインキュバスだろ?」

すると、彼は少し悩みながら言葉にした。
「………オレ、全然ソノ気になれねくて、インキュバスとして落ちこぼれてて……エロ魔王って言われてるアンタのする事、学んで来いって」
「…………成程」

それから男は改めて淫魔を見つめた。
確かに醸し出す雰囲気はエロい。
そのクセに何処か清廉な香りを纏っているギャップに、こりゃコイツにハマる奴は多かろうと思った。

「けどな、それ、ヤってるのを見せろって事か?それとも単にヤリ方教えりゃいーのか?」
すると淫魔は答えた。
「『ヤリ方』自体は知ってる。けどどんな女見ても、ヤろーと思えねー」

そりゃ精神面の問題か、と面倒な気分になってきた男は、取り敢えず尋ねる。
「おまえ、名前は?」
「……カエデ」
恐らく楓の木の下にでも生まれたのだろうか。

「オレの名は……」
「知ってる、アキラだ」
「へぇ……」

面倒だとは思うが、何だかこの淫魔が気に入ってしまったので、アキラは言った。
「ま、とにかく入れ。部屋は幾らでもあるし」
「………世話になる」

妙に律儀な性格に驚いて、もう一度彼をまじまじと見てしまったが、アキラはマントを翻し、王宮内へと連れていった。

そんな二人を、ストロベリームーンの光が照らしていた。

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あきゅろす。
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