パラレル物 サクラ咲く道へ(2) 「だって…いいのかよ、好きな仕事だったんじゃねーの?」 なのに、恋愛事で男の仕事を変えさせるのは、本意ではない。 「何や、おまえ、オレが『高校教師』やったから惚れたんか?」 「んな訳あるかっ!」 思わず返してしまってハッとすると、服部は嬉しそうに笑った。 「そやったらええやん、オレがそうしたいんやから」 何だかはぐらかされた気もするが、ポンポンと背中を叩かれて、オレは黙ってしまった。 「まぁ男同士で社会の制約はなくならへんけど、それでも一緒に居るのに遠慮は要らへん。めっちゃ大事な奴、これ以上泣かせたないしな?」 ニヤリと笑われて、オレは真っ赤になった。 「泣いてなんかねーだろ!」 そしたら服部はフッと笑ってから言った。 「ほんなら…三学期終わってオレが退職したら…二人で卒業旅行しよか?行きたいトコ考えときや」 オレはちょっと驚いて、服部をじっと見つめてしまった。 あぁ───くそ、駄目だ、嬉しい!! 服部はそんなオレを抱きしめて、耳元で囁いた。 「卒業───エエ子で待ってるんやで?」 「〜〜〜〜ガキ扱いすんな!」 服部の腕の中で暴れれば、唇に触れるだけのキスをされた。 思わず期待してしまったオレに、服部は何もなかったかの様に教師の顔をする。 「飯はちゃんと食わなあかんで」 そう言って冷蔵庫の中を確認して、出前を取る事に決めた。 二人で食事をした後、結局何もせずに帰りやがった。 人が居ないのを確認してから道路に出て、笑顔だけを残していった。 (服部平次のバカヤロー!!) 心の中でそう叫ぶ位、許して貰いたい。 本当はこっちから襲ってやろうかとも思ったんだけど、何気に躱しやがって……教師の都合も大人の事情も知った事かとも思うけど。 そして、人を愛する事の何が悪いんだとも思うけど。 知られてアイツが懲戒処分とかされたら、やっぱり厭だし? 卒業旅行に免じてそれまで我慢してやる。 大人の対応なオレに感謝しやがれ。 卒業式まで、あと約1ヶ月…… 過ぎてしまえば早いと言うけど、オレにとっては長く感じた期間だった。 それでも高校教師のアイツはこれで最後だから、『教師と生徒』を楽しむ事にした。 そしてとうとう迎えた卒業式。 式は滞りなく終了し、最後のホームルームがあって、皆がそれぞれ散れ散れになっていく。 オレは蘭と一緒に帰った。 蘭もそれなりに告白とかされたみたいだけど、受け入れた男は居なかったらしい。 オレも何人かにされた告白を、勿論断った。 別々の大学だけど、これからも幼馴染みには変わりないから、普通に「またな」と言って別れた。 オレは何となく、まだ制服を脱ぐ気にはなれず、私有地の森に足を運んだ。 桜は…まだ咲いていない。 けれど今年は服部と二人で見られるのかなと思って微笑んだ。 そうしてオレは、子供の頃の秘密基地に腰掛けた。 あの夏からちゃんと掃除をする様になったから、荒れてはいない。 しかも今や、ある程度の雑貨も置いてある。 少々篭って愛し合うのに困らない程度の物が。 オレの頬が染まったのが判った。 ポケットから出したスマホを弄ってみれば、アンテナが短いの一本程度の微弱な電波だったので、メールの確認だけをして戻した。 そして置いてあった数冊の本のうちの一冊を手に取って、それを捲ってみる。 春の風を感じながら静かに本を読む、そんな時間が過ぎていった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |