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パラレル物
おとぎばなし(2)
麗らかな昼前の時間、本を3冊抱えた昨日の青年が、湖畔に腰を降ろした時、いきなり出てきた人影に驚いて振り向いた。

「…ああ、堪忍。剣術の稽古中の人の気配につい……アンタやったんか」
洋館の雰囲気にそぐわない、着物に袴姿の平次を、青年はまじまじと見つめた。
「……ってか、ここ私有地だぞ」
「ウチの森の続きやからなー。伯爵とは懇意やし、心配あらへん」
人なつっこい笑みを浮かべる男だ。

伯爵、というのは、工藤にこの邸を提供してくれた人物だ。
探に彼を紹介した人でもある。

「……それ、刀…?」
平次の脇差しの、昔の東国風の柄に興味を引かれて、思わず訊いてしまった。
「ん?ああ、そやで。オレはサーベルよりこっちの方が性に合うねん」
「でもこの辺じゃ、相手居ねーんじゃねーの?」
「せやからしょっ中、東まで出稽古に行っとる。これでも結構、西の剣豪言われとるんやで」
「へぇ…北に居るのにか?」
「オレ、ハーフなんや。西とこっちの。18まで西に居った」
確かに西の訛りだけれど。
それでこっちの人間っぽくないのか、と思った処で気付いて言った。
「座れば?」
「おおきに」

平次は笑顔を見せて、工藤の隣に腰を降ろした。
取り敢えず自分の存在を受け入れてくれたらしい。
「オレは平次ゆうねん」
「あ…オレは……新一」

「本読む邪魔やなかったん?」
「まぁ……読むのは何時でも出来るしな」
平次はふと、その本のタイトルが目に入って言った。
「色んなジャンル読むんやなー…経済学に工学……あ、これ『暁の豹』の外伝やんな」
「知ってるのか?」
思わず新一の目が輝いた。

「トリックがちょお古めかしかってんけど、心理描写の得意な作家やな」
「そうなんだよな、結局ファンタジーっぽくなっちまって。でもよ……」
それから二人は暫く小説談義に花を咲かせた。

それで随分と新一の警戒が薄くなったのが、その笑顔で判る。
平次は何となく見惚れてしまった。

「そう言えば新一て、女苦手なん?」
「別に……」
思い出した様に眉を顰める新一に、平次は訂正した。
「堪忍な…嫌な思い出やったんなら……」
「んな気ィ遣わなくてもいいよ。実際気軽に話せる女って、灰原だけだし」
「……あの女医さん?」
「そう。アイツもずけずけ言うから」
新一は笑った。
それからまた、淡々と続ける。

「そりゃ女と何度か寝た事もあるけど…皆オレの容姿とか背景とか、そんなもんで勝手なイメージ作るんだ。オレは別に、特に上品な訳でもねーし、上流階級とか嫌いだし。外面作ってんのも悪いのかも知んねーけど、それは仕方ねーだろ?ガキじゃねーんだから」
そう言って新一は苦笑した。

「…で、オレが地を出すと、そんな人だとは思わなかったとか言ってさ…そっちこそオレの何見てたんだよ?!とか思うじゃん、こっちだってさ」
「ほな、ちゃんと中身見てくれる女ならええんや」
「…うーん……かなぁ?」

「灰原はそないな人ちゃうん?」
「それは…確かにそうだけど……でもアイツと恋愛は有り得ねー」
「そうなん?ええ女やん」
新一がまた笑った。
「もっと素直だったらな…おまえアイツみたいなの好み?」
「そやなぁ…割りと」
「へぇ…」
そう応じると、新一は気付いた。
こんな、男友達じゃなきゃ出来ない様な話をしたのは初めてだ。
何だかわくわくする。


「工藤君?」
昼食に呼びに来た灰原が、二人の姿を見つけた。
「あら…結局友達になったのね?じゃあ貴方もご一緒にランチはいかが?服部君…だったわよね」
「ええんか?道着のままなんやけど…」
「いいわよ。ウチは堅苦しくないから」
「そら助かるわ…ええの?」
新一にも確認すると、彼も頷いた。


この様な経緯で、その後、二人の距離が縮まっていくのに、そんなに長い時間は掛からなかった。

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