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パラレル物
Reiny Anniversary
「…ちっ…忘れとった…」

今日は『雨の日』であったのだ。
平次はドーム内のストリートを小走りで部屋に向かった。

人類生存の為に、ドームで被われたトーキョーシティ。
そこに住んでいる平次は、現場での仕事を終えて帰路につく処だった。

すると不意に、目の端に布の塊みたいなものが映り、平次は足を止めた。
近付いてみるとそれは、胎児みたいに膝を抱えて目を閉じている少年が、雨に濡れていた。

仕事柄、平次はしゃがんで確認すると、生存反応があった。
美麗な、まだしっかりと出来上がっていない様な若い躰に見入ってしまった平次は、はっとして我に返った。
ポリスに連絡しようかと思ったのだが、数瞬後、平次はそれを抱き上げて、自分の部屋へと戻った。



温かいシャワーでその躰を洗い流してやると、少年の瞳が薄く開いた。
見知らぬ男に、見知らぬバスルーム。

「……え?!……オレ…?」
硬直する少年に、平次はやさしく声を掛けた。
「気ィ付いたか?道に倒れとって、放っとく訳にもいかへんから、連れてきたった……何処の子や?」
「あ……」

身分証明を何一つ持っていなかった彼?の見開いた瞳は、宝石の様な、サファイアの色を湛えていた。
彼の躰───否、彼と言っていいのかどうか───は未分化で、雌雄どちらでもなかった。

取り敢えずバスタオルを放ってやると、彼はそれを巻き付けて、平次を見つめた。
「……あの……ありがとう……オレ………」
言い澱んで、彼は目を伏せた。

「…オレ……捨てられて……戻る家なくて……」
「は?マジか?!」
彼はこくんと頷いた。

「オレ……こんなだから……きっと気持ち悪かったんだ…普通至上主義の人達だったから」
彼は唇を噛んだ。
涙が滲みそうになるのを必死に耐えている。

そんな彼に思わず見惚れてしまった平次は、ブンブンと首を横に振った。
「……って、おまえ、未分化体なだけやろ?いずれどっちかに分化する…」
彼はもう一度頷いた。

「ちゃー…っ……差別にも程があるやんか、今時こんなん、珍しいもんでもあらへんで」
確かに少数ではあるけれど。

彼は平次を見つめた。
色黒で、男らしい精悍な顔と躰を持った、整った、と言ってもそれは、男前と評される美丈夫だった。

「……いいなぁ……しっかりとした男の躰……」
羨ましそうに呟く少年に、平次は訊いた。
「男になりたいんか?」
彼はまたも頷いた。

「そや、おまえ、名前は?オレは平次ゆうねん」
「……新一……」

すると不意に新一の腹が鳴って、彼は頬を染めた。
平次は柔らかく笑ってキッチンに向かった。
「食事しよな」

少しぶかぶかだったが、平次の服を着せた新一を椅子に座らせて、食事の用意をしてやると、彼は喉を鳴らした。
「有り合わせやけど、遠慮せぇへんで、食いや?」
「……ありがとう」

生存本能には敵わない。
大分腹が減っていたのだろう、新一はそれらを懸命に口に運んだ。
随分と食べてなかったのだろうか。
平次は彼を不憫に思った。

平次は新一を見つめて、葛藤しながらも、思わず口走っていた。

「ほんなら…暫くオレんとこ、居ってみるか?」
「え……いいのか…?」
平次は首を縦に振った。
「オレは一人暮らしやし……もう少しで分化するんやろ?そしたら身の振り方決められるやろし」
多分、その位の大きさだから。

「ありがとう……でも、オレ、あげられる物何もない……」
「今はそないな心配せぇへんでええで。これも何かの縁やろ…やれる事はこれから見つけてけばええし」
平次の笑顔に、新一はペコリと頭を下げた。



そんな訳で、二人の共同生活は始まった。
生活に関して一通りこなせるし、頭の良い新一は、全く手が掛からなかった。

自宅兼オフィスでパソコンを弄る平次の仕事に、新一は興味を示した。
探偵を営む平次は、例しに問題を幾つか提示してやると、新一は全てに正解を導き出したのだ。

平次は、この子は使える、と、意外な驚きで改めて新一を見つめた。

「ホンマに……こない出来のええ子を捨てた奴の気が知れへん」
ただ、数少ない未分化体だというだけで。


平次は仕事柄、新一の身元を調べていた。
そもそも、彼は孤児で、前に一緒に居た人間も、義理の親だったのだ。
その親と連絡を取ってみた処、もう受け入れるつもりはないと、拒絶の言葉が返ってきていた。

と言っても新一はまだ17で、法律に訴える選択肢もあるのだが、それには新一が首を横に振った。
それでも世話になったのだからと。

それに、正直言ってあまり良い思い出もなく、訴訟と言えども、また彼等と関わるのは気が進まなかったのだ。

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あきゅろす。
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