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パラレル物
微熱灯(3)
好きな人とは大っぴらにデートが出来ない。
蘭だって、いずれは彼氏を見つけて離れていく。
あと半年の辛抱だとは解ってるけど、待っている時間は長いのだ。

「新一、疲れちゃった?」
「え?あ、悪ィ…そろそろ帰っか」
「あれ?服部先生」
「え……」

人混みを掻き分けて来たのは、やはり浴衣を着て、パイングリーンの浴衣に黒い帯を合わせて男前の上がった平次だった。
が、その脇でしっかり彼の腕を組んでいる女の娘が居たのだ。

平次と新一が驚いてお互いを見ていると、その女の娘が平次に訊いた。
「平次、生徒サン?」
新一の躰がピクリと反応した。

「そやねん、工藤、と毛利。これはオレの姪っ子で、和葉ゆーねん」

「こんばんわ」
蘭が愛想良く挨拶すると、和葉も応えた。
「こんばんわ。めっちゃ美男美女のカップルやねぇ…見応えあるわぁ」
「和葉、カップルちゃうんやて」
「そーなん?ごめんな、てっきりそぉや思たわ」
「確認せぇへんと思い込むんは、おまえの悪い癖やで?」
「せやからごめんゆーてるやん」

「蘭、送ってく」
突然新一がそう言うと、蘭は驚いた様子で頷いた。
「新一?」
「じゃあ先生、また」
事務的な口調でそう言って、新一は蘭を促して背を向けた。
平次にはその瞬間の新一の、傷付いた瞳が見えた。
「くど……」

だが新一は、そのまま振り向きもせずに行ってしまった。
咎めたらしい蘭の言葉を振り払う様子が窺えたけれど、その後は雑踏に消えてしまった。


やっとやって来た和葉の父親に彼女を引き渡すと、平次は慌てて新一の家に向かった。
しかし、彼の家には誰も居ない。

蘭を送ったにしても、帰っていていい時間。
なのに何処へ行ってしまったんだろう?
平次は新一の行きそうな所を、彼との会話や交友関係で考えてみた。


その新一は。

「まだ痛んではねーな…」
それは工藤邸の裏手の父親所有の小さな森に、子供の頃、父親と二人で造った基地の様なもの。
凝り性の父親だから、4帖程のスペースとはいえ、結構立派で頑丈だ。

流石に溜っている砂埃を掃き出して、縁側みたいな部分に腰掛けた。

非常用に置いてあった数本の蝋燭に火を点けてシェードに設置すると、小屋自体が螢の様な、秘めやかで情緒のある灯りになった。

「ちっ…着替えてくりゃ良かったな…」
やはり浴衣では動き難い。
家に戻らず、そのまま来てしまったから……平次なら着物にも慣れているのだろうけど。

そう思ったら、胸の痛みの元凶を思い出してしまった。
悔しさに唇を噛む。
子供染みた嫉妬だと自分を宥めようとしても、心が拒絶反応を起こしてしまう。

それに、もし……好きだと言ってくれた言葉が、教師としての方便だったら?

彼はそんな男じゃないと思っていても、恋人としての行為が何一つない事が、新一を不安にさせる。
教師の『大人の事情』を納得するには、新一はまだ若い。

涙が一筋零れてしまって、新一はそれを袖で拭った。

「……服部平次のバカヤロー…」


「────そらないやろ?工藤」
「えっ…」

驚いた。何でここで出てくるんだよ。
しかもここは私有地だっての。

「姪に妬くなや…おまえとは全然ちゃうで?」
「だっ…て…!」
あの女、自分のものみたいな顔して腕組んで、その上……

「何や?言いたい事は言わなあかんで?」


「………平次って……オレだって呼べねーのに……」
拗ねた口調の新一に、平次は思わず破顔して、彼を愛しそうに抱きしめた。

「平次って呼んでええで?学校以外ではな。オレも新一って呼ぶからな…ええやろ?」
新一は平次の胸の中で頷いた。

平次は新一の髪を撫でながら言った。
「ほれ、呼んでみ?」
新一は真っ赤になった。
けれど平次に微笑まれて、肩口に顔を埋めた。

「……平次……」
「うん…好きやで、新一」
新一はぎゅっと、両腕を平次に回した。

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