平新小話集 Daily Variation チャイムの音に、研究の手を止めて、志保は玄関に向かった。 馴染みの声に扉を開けると、隣の名探偵コンビである。 色黒の彼の方がにっこりと笑って、土産物を差し出した。 「研究室に籠もってるんちゃうん?ちょお休憩しよーやv」 志保は目の前の明るい男をじっと見てから苦笑した。 「……どうぞ」 まぁ確かにそろそろ休憩しようかとは思っていた処だったので、良いタイミングと言うべきか。 土産物のケーキを開けて紅茶を淹れてやり、3人分をテーブルに置いた。 「博士は?」 「人に会うとかで出掛けてるわ」 紅茶に口をつける二人を見て、志保は続けた。 「こんな年末の時期に二人揃って、スケジュールに余裕があるのかしら?」 一般的には連休突入、或いは仕事納めであろう日付である。 するとそれには平次が答えた。 「今清掃業者が来とんねん。自分等の部屋に居ってもええねんけど、ねーちゃんとお茶しよ思て」 「ここなら直ぐに戻れるって訳ね」 平次はそんな彼女の言葉に苦笑した。 確かにそれもないではないが、本当は、没頭すると他が後回しになりそうな彼女に休憩させる事が目的だった。 博士も居れば、彼の世話とかでペースを配分するのかも知れないが、ビートルが駐まってない事から、博士は出掛けているのだろう予想はついていたのだ。 「こっちは大掃除終わってんねんな…」 「日頃からちょっとした掃除してれば、大掃除も楽になるのよ。それに、本人じゃなきゃ解らない物も結構あるしね」 工藤邸は、その広さ故に時々業者を呼んでいる。 普段使うスペースは自分達でするが、殆ど使わない部屋まで全て自分達でやるなど時間の浪費、愚の骨頂だ。 阿笠邸も広いが、研究の諸々が少々特殊なので、業者を呼ぶ事は有っても、工藤邸より悠に少ない。 そうして軽い雑談をしながらケーキを食べ、お茶を飲む。 志保は雑誌をパラパラと捲りながら、二人の受け応えをしていた。 すると何かに目を止めた彼女が、関心したみたいに呟いた。 「あらあら……面白い結果が出てるわね…」 「何や?」 問い返す男に目を上げて、志保は意味深に微笑んだ。 「2012年のセックス運ですってよ?牡牛座さんと獅子座さん?」 そんな台詞に咽せそうになった新一を横目に、平次の方にそのページを見せた。 彼女の言う2つの星座のみ目を通した平次は、思わず新一を見てから、バッと雑誌を閉じた。 それを見咎めた新一が、志保に返そうとする平次の手を止めた。 「何だよ、オレにも見せろ」 「アカンて…おまえは見ぃひん方がええ」 「んな言い方されたら余計気になるだろーが、見せろ」 そう言って平次から雑誌を奪った新一は、パラパラと捲ってそのページを見つける。 それを読んだ新一の顔が、見るからに紅く染まっていった。 パンと雑誌を閉じてテーブルに置くと、彼は不機嫌に言い捨てた。 「占いなんて当たんねーだろ」 「そらそうやねんけどな」 「ちょっと結果が面白かっただけよね」 「灰原っ////」 彼女とて、占いを信じる方ではない。 ただ、たまたま面白い結果が書かれていたから、二人の反応を楽しんだだけなのだ。 誌面にはこう書かれていた。 牡牛座<新しいプレイに挑戦するチャンス> 2012年のセックス運は、「未経験のプレイが吉」と出ています。恋人やパートナーにおねだりされているプレイがあるなら、思い切ってチャレンジを。二人の関係が深まります。───中略───後半は、決まったパートナーと数を重ねるのが〇。感度が深まっていきます。 新一にとってはやけにリアリティのあるものだから、笑い事ではない。 しかも今更言われるまでもなく、そんな事は日常なのだ。 そうして志保が平次に言った。 「『いっぽう、結婚を約束した人とのセックスには大きな喜びが。ちょっぴり大胆になってもOKです。グッと絆が深まるはず』ですってよ?お互い相手を間違えない限り、二人は来年もラブラブって訳ね?」 獅子座の方を取り上げて志保が揶揄うと、新一が赤面しつつもムッスリとした表情をして、平次は若干頬を染めて、目を泳がせた。 [次へ#] [戻る] |