平新小話集 熟れた果実 ザァァー…ッ…と音が立つ様な雨がいきなり降ってきて、二人は咄嗟に軒下に入った。 「うわ、めっちゃいきなりやん」 間一髪でびしょ濡れにならずに済んだ事にほっとしながらも、隣の新一に話し掛けた。 「通り雨かいな?」 「降り方からしてそれっぽいけど、どの位降ってるかだな…」 「取り敢えず此処で時間潰そか」 「…って、ココ;」 新一が首を巡らせると、平次は言った。 「選べる様な雨ちゃうやん」 移動などしたら、ずぶ濡れだ。 新一はしょーがねーなぁという素振りで頷いた。 その軒下の建物は書店ではあるが、1F以外はアダルトなDVDやら玩具やら衣装やらがふんだんに取り揃えられている。 二人とも男であるし、利用した事がない訳ではない。 これが例え試写室だったとしても、別段困る事はないのだが。 始めに見ていた1Fの書籍は、他の書店よりアイテムが少ない為、ある程度で外を眺めてみれば、雨は降り続いている。 新一は階段を上がり、別なコーナーに移動した。 さりとて、これでもかと並ぶDVDの美女達にもあいにく食指は動かず、何だかなーと思いながら歩いていると、玩具のコーナーになった。 特に目的もなく眺めていて、ふとある物に目が止まった。 その箱を手に取って、新一はちゃんと見てみた。 (……これ…気持ち好さそうだな…) 何となく、直感ではあるが、箱の説明書きを読んでいると、後ろから声が掛かった。 「気に入ったん?」 ドキッとして振り向くと、平次がその箱を取って笑みを浮かべた。 「ほんなら買うてこーや♪」 「おいっ…;」 そうして平次はそのコーナーを見渡すと、あっけらかんと言った。 「結構マメに新作出てんねんなー…あと何や気になるモンあるか?」 「…ねーよっ////」 頬を染める新一に、平次は笑みを浮かべた。 今更こんな事で照れる様な仲ではないのに。 だが確かに二人で来るのは初めてだ。 「ココ、カップルで見に来る奴等も居てるで?良い刺激になるんちゃう?」 そう言って平次はついでにジェルを2〜3個見繕って、一緒に会計した。 その頃には雨も止んでいたが、もう日暮れの時間なので、街はネオンが灯り始めていた。 「飯食うてこか?」 「…そうだな…」 あんな買い物をしたのだから、家に帰って食事が出来るか怪しいもんだ。 蟹でも食べようかと、それがメインの居酒屋に入った。 席ごとに仕切りのある気安さか、酒が入った所為か、新一が声を抑えてポツンと言った。 「…なぁ、さっきの店…DVDに興味引いたか?」 「ん?別に、特に見ようとしてへんかったからな…」 目に入ってはいたけれど。 「そっか…」 「何でや?」 普通の猥談のノリではないし、何故そんな事をと平次は思った。 「───オレも…ってか、別に女が駄目な訳じゃねーのに興味湧かなくて、別におまえとずっと一緒にって思ってんだから、寧ろ構わねーんだけどよ、けどそれ、男としてどーよって気になっちまって……おまえはどーなのかなって思ってさ」 平次は新一を暫く見つめた。 「…ほんなら、男同士のはどうなん?」 「へ?───んー…見るのは見られると思うけど、特に見てぇとも…思わねーかな…」 「女のでも、映ってれば見られるんやろ?」 「まぁ、それはそうだと思う」 「そやったら問題ないんちゃう?オレとやってて、きっちり欲情してるし、性的な問題何もないやん?男として云々以前に、貞操観念の問題ちゃうの?」 「そんならいいんだけどよ…」 平次はちょっと意味有り気に笑った。 「ほんなら、オレがもし、浮気はせぇへんくてもあちこちの女に目ぇいってたら、おまえどないや?」 「ぶっ飛ばす」 苦虫を噛み潰す様な顔をする新一に、平次はくすくすと笑った。 「そやろ?オレもおまえがそんなやったらイヤや。オレは寧ろ嬉しいで?互いに心底惚れ合ってるっちゅーコトやんv」 新一は真っ赤になったが、同時に納得もした様子だ。 「ほんなら、もう出よか…」 そうして帰り掛け、平次はビデオショップに寄った。 そこでDVDを2本購入してから、家に帰り着いたのだった。 [次へ#] [戻る] |