平新メインストーリー 共に、歩く。/11(2) 何気なく窓を見ると、工藤邸に灯りが点いていた。 「?!」 自分の居ない時に家の灯りが点けられる人間は限られている。 新一は博士に早々に挨拶をして、その家を飛び出した。 新一は自分の家に駆け込んだ。 「服部ィ!!」 けれども玄関にあった靴は女性物だ。 「あれ…?;」 すると中から母親の有希子が出てきた。 「新ちゃんお帰りなさーいv何処行ってたの?」 「え…あぁ、隣。母さんこそ今日はどうしたんだよ?」 「やーね、優作と服部君の家にご挨拶に行って来たんじゃない」 今日だなんて聞いてねーと思いながらも、疑問を口にした。 「じゃあ父さんは?」 「彼はもう仕事で、今度はイタリアに発ったわ。私はその前に新ちゃんの顔見に来たのよv」 「そーかよ…」 まぁ、親父がわざわざオレの顔見る為だけに寄る訳ねーけど、と思い直した。 だからと言って、彼の愛情を疑った事はないのだが。 「なぁに、その態度。服部君じゃなくてがっかりした?」 「なっ…何言ってんだっ」 思わず後ずさると、有希子は演技掛かった口調で返した。 「この年になると、親より友達の方が大事なのねぇ…寂しいわね」 何言ってやがる、子供放っぽって帰って来ないくせに。 なんて心で悪態をつきながらも、バレるよりはいいかと思う。 とは言え、ついて行かないと言ったのは自分なのだ。 それを尊重してくれたのだから、文句を言える筋合いではないのである。 お茶を飲みながら、有希子が息子を眺めて訊いた。 「それでどーなのよ?」 「何が?」 「モテモテの新一君は、一人に決められたの?」 思わず新一は咳込んだ。 もう少しで気管に入り掛ける処だった紅茶を押し戻して、自分のこめかみを押さえた。 「…勘弁してくれよ…どういう意味だよ」 「えー、だってずっと好きみたいだった蘭ちゃんや、お隣の灰原さんとだって、付き合ってるんでしょ?」 「付き合ってねー!!」 言い切ってから、新一は自分を落ち着かせた。 「蘭は、幼馴染みとして大事だし、灰原は…同志みたいなもんで、大体アイツがオレの事好きな訳ねー」 「あら、新ちゃんって女心が解ってないのね。でもまぁ、新ちゃん自身が恋愛感情を持てないなら仕方ないけど」 (そっかー、いずれホントに娘になりそう、なんて言っちゃったけど、読み違いなのかしら?この鈍感息子はまだまだ掛かりそうねぇ) なんて母が思っていると、新一の携帯が着信のメロディーを奏でて、彼はそれを取った。 「……あぁ、判ってる…今母さんが帰ってるんだ」 相手は勿論平次だ。 「うん、判った…後で電話する」 そう答えて電話を切ると、母親がにこにこ笑っている。 「意外ねぇ、着メロ『Fly me to the moon』なの?色っぽいじゃないv」 やばい。 これは服部専用の曲なのだ。 勿論アイツにも教えてない。 新一はテーブルの下で電源を切った。 もし他の着信があったら、感の良い母にバレてしまう。 「服部君っていい子よね」 新一は顔を上げた。 「礼儀正しくてやさしくて気が利いて。なのに鈍感なトコが新ちゃんそっくり!ギャップがあるのよねぇ…」 くすくすと有希子は楽しそうに笑う。 「新ちゃんの為に、何を置いても駆け着けて来てくれそうな子…大事にしないとね」 その好意を、実は息子の恋人だと知っても持ち続けてくれるだろうか? 思わず新一は、真剣な顔で母の瞳を見つめてしまった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |