平新メインストーリー Married Life(11) 「そう、今貴方の大事なダンナ様を拉致してるから、心配だったらいらっしゃい」 そう言って切ってしまう志保に平次は目を丸くした。 「拉致て……」 「賭けましょうか?あくまで意地張って来ないか、心配して来るか」 小悪魔の様な表情で笑う彼女に、平次は溜め息をついた。 彼は少しだけ考えて、答えを出す。 「暫く意地張って葛藤しとるけど、結局文句を言う名目で来る…ってトコやろな」 志保は一瞬目を見開くと、ふふふと笑った。 「…賭けにならないわね。私もそう思うわ」 そんな台詞で二人は、まるで共犯者みたいな笑みを零した。 「全く……ねーちゃんには敵わんわ…」 ふと、志保は平次を見つめた。 「?」 それからちょっと躊躇う様子をみせてから、志保は言った。 「……『ねーちゃん』って、関西では当たり前の呼び方なのよね?」 「そやで?」 「でも私は関西人じゃないし、ちゃんと名前があるのよ?」 目を丸くした平次は、そのまま志保を見つめた。 思わず真っ赤になってそっぽを向く志保は、何だか新一と似ていたりして、名前で呼べという意図を理解した平次は、ぽりぽりと頭を掻いた。 普段はねーちゃん言うクセに、ピンポイントで『宮野』なんて呼ぶものだから、変にドキドキしてしまうのは、志保にとっては精神衛生上良ろしくない。 それならいっそ統一して欲しいと思うのだが、平次にはそこまでは読めてはいない。 「あー……ほんなら……『宮野』でええ?」 今更訊いてくる平次に志保は頷くと、何故だか二人して照れてしまった。 ここで浮上するのは新一が『灰原』と呼んでいる点なのだが、単に慣れなのか、どちらでも志保だからなのか、その辺を追求した事はないのだけれど、新一のみの呼び方でもあるし、志保が特に直させていない様なので、それはそれで良い事にしておく。 ただ、平次が志保の呼び方を変える事で、(新一へのケアは必要やろな)と考えてしまうのだった。 そこへ呼び鈴が鳴り、志保が立ち上がった。 「来たみたいね」 玄関に向かう彼女を目で追ってから、平次はまた珈琲を飲んだ。 新一は新一の、志保は志保の好みの珈琲の味があるので、平次はどちらも楽しむ事にしている。 玄関での声が聞こえてきた。 「いらっしゃい」 「オメー、何が拉致なんだよ、完全に揶揄ってるだろ」 「どうぞ?『彼』の無事を確かめたら?」 「───ったく……」 そんな会話の後、二人がリビングスペースにやってきた。 「オメーも乗せられてんじゃねーよ」 そんな風に言いながら、新一は平次の隣に座る。 電話の後で作っておいた珈琲を、志保が新一にも出してやると、平次は応えた。 「せやかて、宮野に逆らえる思うか?」 ふと、その言葉に引っ掛かって新一は平次を見つめた。 すると彼はすんなりと返した。 「ねーちゃん言うなて怒られてん」 「────あぁ……」 関西では普通だが、そうじゃない志保にとっては違和感あるものなんだろうと、新一も理解する。 二人きりになってからでなく、敢えて彼女の前で言う事で、他意はないのだと知らせた。 すると、新一は別な事に思い当たった。 「…そーいやオレ、灰原のまんまだったな、宮野の方が良いか?」 新一自身は意味があってそう呼んでた訳ではないらしい。 「……そーねぇ…二人が別々の呼び名っていうのは都合が悪いかしらね…」 「なら、オレも宮野にするよ。外でだってその方が良いだろ」 あっさりと言う新一に、志保は複雑な表情をした。 何となく新一だけが違う呼び方なのが嬉しかったりもしたのだが、今となっては不都合の方が多いというのは頭では理解出来る。 (……私、まだこの人に未練あるのかしら…?) 眉間に皺を寄せてしまう志保を、新一は不思議そうに見たが、何となく察した平次は、掛ける言葉が見つからない。 「何か不都合あるか?」 訊き返す新一に、彼女ははっとして笑みを作った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |