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鳳凰戦華伝




しばらく進み街道に出た辺りで、顔色を伺うように月下が聞いた。


「寂しい?」

「何がだ?」

いきなり問われたことに、前を進む花椿は振り返らずに答え、淡々と歩を進ませた。
既に馬も大人しさを取り戻している。


「だから、村を出て寂しい?」

「……寂しくないと言えば、嘘になる」

聞いたのは自分だが、月下は驚いたようだった。
決意は固く、性格上頑固な花椿が未練を残すとは思いがたかった。


「あそこは、悪夢を見た場所だが、大切な思い出がある場所でもあるからな」

珍しく饒舌だ。
基本的に無口な人なので、自分のことは語りたがらないのだが。と月下はひそかに笑った。


「……お前も、すまなかった」

「……はい?」

言われたことに驚き過ぎて、危うく馬から落ちるところだった。
落馬なんて冗談じゃない。


「私がお前を巻き込まなければ、お前は平穏に生きていただろう。すまない、と思っている」


謝られたのだ。
尊大なこの人に。

またも月下は馬から落ちそうになった。

さすがにそんな気配を読み取ったのか、花椿はす、と瞳をすがめて月下を睨む。


それを見てとった月下は、咄嗟に言葉を紡いだ。

「貴方が謝る必要はないわ。私が着いて行きたくて着いて行ったんだもの。だから、気にしないで」


謝ることが少ない人に謝られるとなかなかに、むず痒い気持ちになる。

たまらず、月下は喋りながらも笑みを溢した。

馬を止めてこちらを伺っていた花椿も、虚をつかれたような表情から、ふっと笑顔になる。


「……ありがとう。私に着いて来てくれて」

同時に呟かれた感謝の言葉には、熱い思いが込み上げてくる。
笑顔にならずにはいられなかった。














終わりは全ての始まり。

だが、始まりは終わりがあってこそ。




あの懐かしき日々には、もう戻れないが、今の日々をどう歩むか。
それが、新たな始まりを生むきっかけとなる。







柔らかな日差しが降り注ぐ中、二人の女は歩き続ける。




気高き鳳凰の魂が、あの空に輝く、その時まで。





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