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小さな始まり(幸村)
「幸村、おやつのおまんじゅうだよ」

ここは上田城主である幸村の部屋。幼なじみの名前が勢いよく襖を開ける。
名前の持つお皿には甘味好きの幸村にはたまらないおまんじゅうが二つ。それを目にした瞬間、幸村は今まで行っていた政務をほうり投げ、ぶんぶんと尻尾をこれでもかと言うほどに振っている…とはいえ実際には尻尾など持ち合わせていないのだが名前にはそう見えた。

「名前!!早く!!早く食べようぞ」

幼なじみの満面の笑みにつられるように名前の顔もほころぶ。今にも飛びついてきそうな幸村の前に座り、おまんじゅうを差し出す。

「幸村は甘味が好きだね」

「うむ。このまんじゅうは特にあんこの味が気に入っておるのだ」

「そうだよね、名前もこのあんこ大好きだなあ」

幸村の言葉に大きく頷き返しながらおまんじゅうをほおばる。

「そういえば佐助がね、今日の夕餉なにがいいか聞いてたけど幸村はなにがいい?名前はね…」

話し掛けているのに幸村からの返事はなく、名前の顔を見つめている。

「ちょっと、幸村きいてるの?」

呼んでも返答のない幸村に対し名前の御機嫌は斜めになっていく。それでもなお名前の顔を見つめ続ける幸村。ほんとうになんなのだ、幸村は。と思い名前も見つめ返す。
すると、だんだんと幸村の整った顔が近づき、焦点が合わないと思った瞬間唇にしっとりとした感触を感じた。
ぽかんと口を開けて放心状態の名前。

「あんこ、ついてたでござる」


20111128 小さな始まり

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