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じぶんてきみかたそのた。(上)
コンビニから出て、俺は小さな路地裏に入った。



人もいなくて、暗くじめじめした場所。
なんてもってこいな場所なんだろうか。





「そろそろ出て来ねえ?出てきてもらわないと、俺がここまで来た意味ねーじゃん」




…人の出てくる気配はなかった。

ったく。せっかくアイス買ったのに溶けちゃうじゃねえか。




「んだよ恥ずかしいのか?恥ずかしがりやさんなんですか?コノヤロー



瞬間。

足元に何かが飛んでくる気配。
とっさに俺は、どっかの建物の壁沿いににあるパイプを軸に空中に飛び上がった。


挨拶にしちゃ、ちょっと乱暴だよな。




「別に恥ずかしがってなどいない」

低い声と共に気配なく現れた人間。

きっしーほどじゃねえが背はまあまあ高く、なんというか、全体的に暗く、夜みたいな印象を持つ男だった。


「…まあ、確かに恥ずかしがりやには見えねーな。なんだ?いい年してかくれんぼか?

誰が一人でかくれんぼなどするものか…っ!!!!

俺は昔一人でやってたもんね!!一人でまーだだよー言ってたもんね!

お前かよ




おお…なんというかきっしー並みのツッコミだ…!!



でもきっしーみたいなヘタレ感は感じられない。惜しい…。


ツッコミから我に帰った目の前の男。コホンと咳払いを一つして、俺を見据える。




「遊びもここまでだ」

「いや、言っとくけど勝手にツッコんでたのアンタだかんな?

「だっ…黙れ!!」



俺にしては至って真面目だもんね!


ギリっ…と俺を睨んで、向こうは口を開いた。






「お前が、零崎軋識か?」


お。本題ってヤツだろうか。


「いんやァ?俺はきっしーじゃあねえよ?見りゃわかんね?俺あんなヘタレ臭出してねーもん!!!

そこか!!




なんか今この場に登場もしていないのに二人の他人からヘタレヘタレ言われているきっしーがすごく不敏だ。



まあ、しょうがないよな。だってヘタレだもん。





「ああ〜〜もう!!この目の前の少年に踊らされているような気がしてすごく腹が立つ!!…っと。いかん。冷静に冷静に。じゃあ聞こう、少年。お前が零崎軋識でないと言うのなら…






そのバットは何なんだ?」





あちゃー。バレてたっぽい。

やっぱこのケース見りゃわかるか。バットって。





「見りゃわかんねーのか?バットですることなんて一つだろ。アメリカンベースボールするんだよ

「零崎軋識のバットで野球なんかしたらバットが球だらけになるわッ!!!!




はぐらかそうとしたけどやっぱ無理でした。


男はだんだんイラついてきたようで、チッ!!と舌打ちをして俺から顔を背ける。





「ったく!!この少年と話してちゃ埒があかん!!零崎にまともなヤツはいないのか!」

「しっつれいな!!俺は小学六年生無遅刻無欠席なんだぜ!」

知らんわそんなん。まあ、かまわん。お前を人質としておけば零崎は自然に集まってくる。それまでに人質に……っ俺の目の前でアイスを食うなァアアアアァアアア!!!!!!

「あ?」




だってアイス溶けちゃうじゃん。もう半分くらいデロンデロンしてたんですけどー。





「っ、これだから零崎というやつは!!序列三位だからって威張りやがって…っ!!
「いや、それ関係なくね?」



まあ、とりあえずアイスを…あ、そういえば。





「なあなあ、そこの兄さん」

「なんだ…というよりお前今の状況わかってんのか?」

「わかってるしそんくらい!!」


人質だろ?んでもって


アイスが溶けてヤバくね?ってことまで!!

「ちがーうッ!!」





わかっていませんでした。




いやいや、そんなことより、



「おーい兄さん」

「なんだもうお願いだからしゃべるな」

「いや、それはかまわねえんだけどさ、俺、零崎じゃねえよ?




「……。」

「(*´∀`)アハー」





じゃあお前は誰だァアアァアア!!!!

哀川潤だァアアァアア!!

嘘つけェエエェエエ!!!!




ああ、とうとう目の前の男が「ああっ!!もうだめです私!!」とか「マイホォオオム!!ヘルプミィイイィイイ!!」とかなんとか叫び始めた。


所在は男をちょっとだけ不憫に思った。





「うん。まあ、なんかいろいろ苦労人みたいだけど、ガンバ☆

現在進行形で苦労させてるやつが言うな。いや、ていうか本当にお前は誰なんだ?零崎じゃないならそのバットはなんでお前が持っている?一般人ならなんでそんなに裏世界を知っている?」

「んな、急に質問攻めされてもなー。だいたい相手に名乗らせる前にまず自分が名乗れって教わりませんでしたかー?コノヤロー」



ぐっ…と息を詰まらせ、男はたじろぐ。

うわー。

たぶんこの人めっちゃ真面目なんだろうな。




「俺は…天吹夜という」

「…っ!!天吹?」



天吹って…確か殺し名序列…五位か六位くらいじゃなかったっけか?



「天吹…ハハーン。もしかして、お前、序列六位にコンプレックス感じてんの?うっわー

「断じて違う…!!天吹を侮辱するつもりか!?俺は六位で大満足だ!」

「気にしてんじゃねーか。
かっこわりーの!!」

「ぐっ…黙れ!!くぅっ…こうなったのも全部零崎軋識のせいだ…!!」

「なんでそこできっしーがくるんだよ」





男は苦虫を噛みくずしたような顔をして、語り始めた。



「あれは…俺と天吹の仲間、そして零崎双識、零崎軋識と戦っていたとき…少しばかりこちらが押され、しょうがないから逃げの体勢に入ったその時…っ!!
あの零崎軋識が何と俺に言い放ったと思うか?」


天吹よりも死吹のほうがなんか名前かっこよくね?って?」


「ちがうッ!!!!あいつはあの端正な忌々しい顔を歪めてこう言ったんだ…

『ハッ!!所詮六位風情天吹が…このヘタレ!!』

と!!

おかげで俺はずっと天吹の中でヘタレと呼ばれつづけっ…しかも何よりヘタレにヘタレと言われたのがなんとも俺はっ!!ぬァアアァアア!!!!



泣き崩れる男を見て俺は本当に、さいっこうに、哀れに見えた。
あー…きっしーも若かったんだろーなー。
なんか調子乗ってたら言いそうだもんなー。

何より人にヘタレと言える機会ができたことにものすごい喜びを感じたんだろーなー。
だって序列の順位を出すなんてかっこわりーもん。
天吹と戦う前によっぽど誰かにヘタレって言われ続けたんだろーなー。




うっわー、この天吹さんホンット哀れ。



俺は、男を切なげで、な表情で見つめ、手を差し伸べた。


「まあ、順位も顔も地位も行動もきっしーのがかっこいーからきっしーに勝つなんてさ、無理っぽそーだけど頑張れ。俺、きっと応援してるから

無理っぽそうとか言うなァアアァアア!!俺も感づいてたけどさ!でも」




グスッ…っと涙を拭き取り、男は殺意のこもった声で心の底から憎々しげに呟いた。



「零崎軋識のやつ…ここに来たら…



あんなごみ…零崎軋識という塵の全てをめちゃくちゃに切り裂いて綺麗に掃除してやる…!!」







その言葉。


言葉にはとても強い力がある。



所在は男がそう言うまでは、好感とはいかないまでも、男のことが嫌いというわけではなかった。

話していて、不快感なんてなかったし。
どっちかといえば楽しいし。




今さっきのコントのような冗談なら笑って聞き流せた。


でも、男が本気だと知った。




この言葉が、所在の男の見方、所在からの価値観などを変えるのには決定打に値した。




コイツは―………。





「おい」

「何だ!!まだ何か…」



天吹夜は、所在に視線を向けた瞬間、背筋が凍った。

背筋が凍る。そんなありふれた陳腐な表現だし、今時のライトノベルでは、ちゃんちゃらおかしい表現かもしれないが、まさに今の感覚は"それ"そのものだった。





あの、ボケっとして今さっきまでヘラヘラ笑って余裕かましていた少年が、一変。

少年の空気はまるで別人のように変わっていた。


二重人格とか、そんなレベルでは収まらないぐらいに。


人格というよりは、人間性。存在そのもの。



その変わりように、男は息をのんだ。






「軋識に怪我一つさせてみろ…殺すだけじゃあすまねえぞ」



所在は、瞳孔が開ききった目で男を見る。

その表情には、冷酷で、だがしかし、殺意というには何とも荒削りなものがあった。



「…は。高々一般人に何ができる。鍛えてもいないようなヤツが簡単に人を殺したりなんかができるわけがないだろう?何がお前の逆鱗に触れたかは知らないが、俺にそんな態度をとってもいいのか少年。俺は、お前なんか二秒あれば殺せる」

「へえ…じゃあ」



ガッ!!

男の首…頸動脈スレスレを、最初に男が投げた刃物が鋭く宙を舞う。



男は目を見開いた。少年の動きに、速さに、殺気に、全てに反応できないことに驚きを隠せなかった。




「反応もできねーの?」


静かに少年が言う。


「さっき、"殺せる"って言ったよな?じゃあ」





『俺を、殺してみろよ』





その殺意は、薄まるどころかとてつもなく濃厚に、暗く、それそのものが男を埋めるように。

たかだか一般人?


ならばなんなんだこの殺意は。



まる…
で…これ…は……





零ざっ…


あ…


       あ…




バットが宙を舞

やっぱりあれは零崎軋識の




   愚


       神



           賛



反応できない。

少年の赤い赤い朱い紅い紅い紅い紅い紅い目が血走って俺を見て俺の頭から同じ赤い赤いあかいあかいあかいあかい液体が出て出てアイスが地をバットが釘出てて少年の口元歪みを歪んでゆゆゆゆゆがんでああ綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗奇礼奇例奇例奇綺麗アアアアァアアアどうしてどうしてどうして一般人が一一般がそれを扱いこなしてそんなことができるだからねそれば零崎きしししししきの特性特特特性で俺の反撃なんか華麗に華麗恐れなんか無い笑って笑笑っあはは何でも無無無今さっきまたいなばばば゛ばばばばばば―…



 
あああああああ




何で?殺意なんて微塵もなかったのに。

意味がわからない。一つもわからない。


わからないわからないわからないわからないわからないわからない。

なにがあった?
ただ俺は、馬鹿みたいに反撃して、普通避けれねえだろあんなの。



火蓋もあんな下らないことでふっとんで、あいつに何かしただろうか。





コントぐらいしかしてねえっつーの。



殺意。


あいつに触れたものはなんだったのか。





俺は、何をしたのだろうか


少年は、どうして息をするみたいに何でもないように俺を"  "のだろうか。




は。馬鹿馬鹿しい。






グシャッ!!!!



俺は、自分の命が砕ける音を聞いた。





.





天吹夜はただの使い捨てのキャラクターです。
原作とはこれっぽっちも関係ありません。

天吹と零崎の戦いもただの捏造ですのであしからず。
使い捨てのキャラを書くのが一番むずい。
性格も何も決まってなかったから…。(´Д`;)


今回で所在くん覚醒しました。(笑)
あ、まだ途中か。


この五話は異様に長くなっちゃったから二分割しました。

さあさ、それでは、後半に続きます。


きっしー、がんば!(笑)

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あきゅろす。
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