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笑顔
風が爽やかに吹きわたるこのドキドキおやつタイムあたり。


殺人鬼+≪仲間≫の俺が。

…なんでこんなところでまったり?とアイスをほおばっているのだろうか。

しかも俺には全く縁のなさそうなボケ〜っとしている見ず知らずのガキと。



……現在地、城咲のマンションの近くの公園。
公園…というよりも、やたら高級感漂う広場みたいなところである。
マンションの外観を見ればわかるが、ここらへんは本当にセレブばかりが住んでいる。だからか、公園の設備も上等。

ニューヨークにあるセントラルパークみたいなところを想像してもらえるといいだろう。


んで、俺と少年は広場の、大きい立派な大木の下にあるベンチでまったりとアイスを食っているところだ。

え?どうしてそんな状況になったかって?

それは………








「はっ…ハァアアアア!?あ、預かれ!?」

時は数十分前に遡る。

俺は、暴君から今までにないかつ一番意味の解らない命令を受けた。
いや、意味はわかる。

だがしかし、時には意味がわかりたくないものもあるのだ。


「な…何故そのような命令を…私に?」

「だって…


ぐっちゃんはやさしいもんね?」



天使の笑顔ォオオオゥ!!!!!!

すみません今脳内が取り乱しました。
いや、しかし今回ばかりはその笑顔に騙されるわけにはいかない。

ガキを引き取る?できるわけないだろ。


「わ、私にはこの少年を預かる余裕がないのでs「あるよね?」「あります


ああもう俺はなんて意志がよわいんだろうか。
いや、でも暴君の笑顔が見れただけで本望…ッ!


…じゃない!
つい勢いで「あります」だなんて断言してしまったが実際預かれるはずがない。

理由は俺の体裁やら状況やら職業やらあるけれどもそれよりも、とにかく俺はあの針金変態メガネ達の世話で手一杯だ。



これ以上このにへーっとしたガキ。無理に決まってる。

「まあ、ぐっちゃん。私もそんないきなり今預かってとは言わないよ。何回かここに来て、バカとふれ合ううちに預かれる状態になったら預かってほしい」

「し、しかしっ…」


「…おい」




おれがすぐさま反論をあげようとすると、どこからか低い声が聞こえた。


「友…今さっきから黙って聞いていれば…」


ガキはわなわなと肩を震わせている。




まあ、まだ11、12そこらのガキが、自分の目の前で自分自身を引き取る引き取らないだの話をされるなんて、あんまりいい気分はしないだろうな。




ガキはバッ!!と勢いよく顔をあげた。




俺は馬鹿じゃねェエエエェエ!!!


そっちかァアア!!



少し感慨深く、さらにシリアスチックにした空気代を今すぐ利子付きで返せェエエエ!!











んで。

アイスを貪っている状態に至っているのである。


暴君いわく、『第一回、所在くんとの心の距離を縮めよう!爽やかちるちる青春風味ドロップス!』



俺が言えたことではないが斬新なネーミングセンスだなオイ。





…吹きわたる春の風、春休みの今の時期は…春休みの半ば…か。

公園にある桜の花びらが舞う姿があまりにも綺麗で、しばらく空中を見惚れてしまった。





「……おい」

「…………。」

「…何で、何も喋らない?」


俺が気になっていたこと。それは、こいつの態度。

暴君の家から、コンビニ、そしてここの公園に至るまで、こいつはほとんど口を聞かなかった。


暴君の家ではギャアギャア言ってたのが嘘のように。


「…友、さ」

「暴君?」

「俺のこと、嫌いなのかな」

「は?」



あいつは、うつむいたまま、ぽつりぽつりと言った。


「俺…さ、友が始めてなんだよ」

「何がだ?」

「…対等の立場で、話してくれる…人」

「………。」

「友の家に来る前もさ、確かに友達はいたし、いろいろと楽しかった。けどさ、やっぱり記憶がないって、結構ツラいんだ」

「記憶がない?」

「おう。幼いころのな。親の記憶も、それまでの生活のことも。いつのまにか病院で生活してて、幼い頃の俺は、いつもいつも、医者に聞いたんだ。ねえ、何があったの?って馬鹿みたいに。その度に医者は、もう大丈夫だから。って繰り返してた」



何が大丈夫なのか。その理由は一度だって聞いたことはない。



「退院して、普通の生活にもどってからも、なんだか全てが空虚で。幼い子供っていうのはすごく残酷だった。俺が記憶がないことを知った周りの奴らは『ねえ、何で記憶がないの?』って聞いてくるばかり。それからも、俺に近づいてくる奴は、興味本意か、同情か」


所在は、喉を震わせながら、かみころすように言う。


「俺は、正直そんな奴らは特に気にもとめてなかったし、仕方ないとも思ってた。親がいないのも、小さい頃からだからもう慣れてたし、一人で生きていくのが普通だと思ってた。どっちにしたって、親のぬくもり…っていうのさえ知らなかったし。…でもっ」



そんなときに。



「俺は友に会った」



蒼く、あの孤高にいる少女に。


「何も知らないのに。俺のことを。そんな俺を、何でもないかのように受け入れて。記憶がないんだって言ったときも、あいつは「ふーん」って。周りから見たら冷酷だ、とか言うかもしれねえけど、同情で近づいてくる奴らよりか凄くマシだ。いや、友にとっては、ほんっとーにただの興味本意、ただの気まぐれかも知れねえけど。それに、あいつは俺を必要としてくれた」


これでも、俺、料理は得意なんだぜ!と所在はガバッと顔を上げて俺に笑顔を見せる。

けど、またすぐにうつむいた。


「誰かと過ごすのも初めてで、俺がやったことで友が笑顔を見せるのが嬉しくて。…でも、アイツにとって俺は…やっぱり必要じゃないのかと思ったんだよ。今さっき。きっしーに、俺を引き取ってくれって、言ったとき、やっぱり、俺は迷惑な存在だったのかなって…」



受け入れてくれたのも、初めてだった。

拒絶を感じたのも、初めてだった。



「…まっ、こんなの。所詮、戯言だよなっ」




戯言。

確かに、しょうもないことかもしれない。

けど、人にとってはそれが一番重要なこともある。



あいつが"戯言"と口にしたとき、ひどくつらそうで。




俺は。


「…っ!?きっ」


「泣きたいときには泣け」



いつのまにか、俺は所在の頭をうでで引き寄せ、胸に押し付けていた。



「………。」

「お前は、孤独を知りすぎていたんだ」



人の温かさに触れたことがない。
孤独しかしらない。


たぶん、所在にとって孤独は安息であったのかもしれない。



暴君がそんな所在を知ったのかはわからない。
けれども、暴君が与えたのは、孤独でもなく冷たさでもなく、あたたかさ。


暴君は感情が欠落している。

だが、所在も、感情が欠落している。いや、むしろ感情を知らなかったのだろう。



「暴君は、安易に側に人をおくような方ではない。人を拾うなんて聞いたこともない」


言うなれば、暴君も孤独だった。
どんなに≪仲間≫を集めても、暴君は俺たちを代替物としか考えていない。

だけど、所在は違う。



あまり、認めたくはない。けれども。


「暴君は、お前に心を近づけていた。お前の一挙一動で笑っていた暴君は、絶対計算なんかじゃねえ。俺だって、あんな笑顔見たことない」



たのしそうに笑う暴君。
アレは本物の笑顔。

俺には、見せたことのない笑顔。


所在だけでなく、俺だってあの場にいた。
そんな中でも、俺にも、屈託のない笑顔を見せたんだ。

よくよく考えれば、それはすごいことだ。



あのときの暴君は、いつもより、格段に幼く見えて、年相応の普通の女の子だった。




「…大事に」

「…?」

「大事に、思ってねえやつに、あんな笑顔、見せるわけねえだろ」



俺は所在の頭を引き寄せた腕を、肩に回し、抱きしめた。



「暴君が、お前を俺に預けようとした理由はいろいろ考えられる。…暴君はお体が弱いしな。もしかすると、お前に迷惑をかけたくないという気持ちがあったのかもしれない。いや、それはないかもしれないが…とにかく!!」



俺は、さらに力を腕に込める。



「暴君は、お前を大切に思ってることだけは間違いない」




…何を俺はこんなに必死になってるのだろうか。

ちょっと冷静になってみれば、この行動は結構恥ずかしい。



だけど、恥ずかしさよりも何よりも。

何故だか腕の中にいるこいつが笑ってないほうが嫌だった。



「…ヘタレ」

「誰がヘタレだコラ」



俺が腕を解くと、所在はゆっくり離れた。



「ヘタレ、キャラ違う…」

「うっさい。そんなの俺が一番理解している」



本当、どうしてしまったんだ俺は。



「きっしー。きっしーはさ、」

「きっしー言うな」


今さらだけど。




「優しいよな」

「なっ」


優しい?俺が?



「優しく…なんかねえ」





所在は、顔をあげる。


「ありがとうな!きっしー!」



キラキラした笑顔を所在は俺に向ける。

それは、とても綺麗で、この青い春の空のように澄みきっていた。



純粋で、ひたむきで。

すごく居心地のいい笑顔。


俺の顔が、自然に笑顔をつくるのがわかった。


所在も、にへーっと笑みを返してくれる。



「きっしーって、なんだか兄貴みたいだよな!」

「…頼まれてもお前の兄貴にはなりたくない」

「ひでえ!」


本当にショックを受けたような顔をしてから、すねたように所在は俺をみる。

よくそんなに表情がころころ変わるもんだ。



「きししっ。嘘だ嘘」

「…!!ヘタ兄…!!

何だヘタ兄って


いや、なんか意味合いは分かるけど。

わかったらわかったで何かイラッとする。


ベシッと軽く所在の頭をはたく。


グハッとか言いながら痛がる所在を見て俺が笑うと、つられてか向こうも笑顔になった。









≪仲間≫としてでもなく、零崎としてでもなく、こんなに笑ったのはどれぐらい久しぶりなんだろうか。


でも、やっぱり俺は≪仲間≫で、零崎で。





それはいつになっても変わら




「…!?」


あたたかい空気に混じる、冷たい不快な鋭い空気。

しかも常人が出せるものではないもの。


プロのプレイヤー。
殺し名。



あたたかい場所から、一気に冷たい場所へ引き戻される。



誰かが、俺を見ている。

零崎と気づかれたのか…?



少なくとも、敵が、いる。


やはり、いつもバットを持っていくのは正解だった。






「きっしー」


隣から聞こえてきた声に、一瞬体がこわばる。

「な…なんだ?」

「ああ、いや、俺、もう一個アイス買ってくる!」

「お…まえ…どれだけ食べる気なんだ」

アイスなら無限大にいける気がする



そう言って笑う所在を見て、なぜかほっとした。




こいつは、こっちの世界に来てはいけない。


その、笑顔を絶やしたくない。





「わかった。気をつけて行ってこいよ」

「イエッサー!!」



コンビニのほうに走る所在をみて、ため息をついた。

どうせあいつはアイスを選ぶのに時間がかかるだろう。





「それでは、かるーく、零崎をはじめるっちゃ」


早く終わらせて、あいつのもとへ。



そう思って、釘バットを手に持とうとする。

…が、



「…え?」



何故?





確かに置いたはずの釘バット。




ベンチの下にあったはずのものは、跡形もなく無くなっていた。





それが、どうにも不安を掻き立てて。



桜の花びらだけが、心地よさそうに風にふわりと舞った。







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