やってきたんだぜ戯言界!
とある高級の上に超が三つほどついても足りないくらいの高級マンション。
そのマンションの…客室とはとても言えないが、一応客室となっている場所に少年と客人がいた。
少年は、全く誰だか知らない客人にもの凄く睨まれながらも(ただし少年は全く気にも止めず、そればかりか、鼻歌まで歌っている)少年のために用意されたであろうパソコンゲームで暇を潰している。
「あ゙っ!!」
ビーッとパソコンから音が鳴り、記された"GAMEOVER"の文字。
そのゲームオーバーを知らせる画面に、少年は、怒ったようにむーっと頬を膨らませ、フローリングの上に仰向けにバタッと倒れた。
その時、後ろ客人さんと少年は目があった。
客人は、少々居心地が悪そうに顔を歪める。ついさっきまで、余所者の少年を殺気だたせてまで睨んでいた威勢はどこへやら。
ただ、そんな視線に気づいていたのかいないのか未だにわからないが、(多分後者だろう。)少年は客人に、にへらっと笑いかけた。
急に笑いかけられた客人は、驚いたように目を丸くし、慌てて目を反らした。
それと同時に、客室にショートカットの少女が入って、客人の前に座る。
人間離れした青く、蒼い髪と瞳をした少女。
この部屋の主人である。
まだ幼さの残る少女は、似つかわしくない、冷たいオーラを出しながら客人と話をしている。
客人は、その少女とはだいぶ年も離れているだろう。にも関わらず、その少女を「死線の蒼」と呼び、彼女を自分の命より大切な壊れ物のように扱っている。
しばらくして、話が終わったのか、客人はマンションを後にした。
少年は未だに倒れたままだ。
「所在…」
そう呟いて、とことこと少女は所在の方に歩き、所在の視線先にやって来た。
そしてー…
「…へ?」
「ていっ」
「ぐふぉえッ!!」
少女は、いきなり所在の上にダイブした。
ちなみに少女の格好は裸にコート一つというなんとも…アレな格好。
「……。」
所在##NAME1##は、少し顔を赤らめながら少女をぼーっとみている。
確かにこの頃の年頃の反応と言ったら、正常であり、青春であり、微笑ましくもあるが…
「うわああぁああッ!!襲われる!!」
「誰が。誰を」
「友が、俺をだよっ!!友は美形なんだからそういう格好で人の上に乗ったりするといろいろ誤解を招くんだぜこのエロテロリスト!!」
「それ以上言うと太平洋に沈めるからね」
…なんかやたら危険を孕んだ会話が紛れているのは気のせいだろうか。
いや、もう所在なんかは涙目で「玖渚怖い玖渚怖い玖渚怖い玖渚怖い玖渚怖い」って言っているのは聞き間違いだろうか。
いや、聞き間違いではない。
跨がって座っていた少女…いや、ずっとこの少女、じゃ彼女も可哀想だからちゃんと名前で呼んであげよう。
玖渚友。
世界の四分の一を司ると言われている玖渚機関本家の娘。
世界的サイバーテロのリーダーであり、死線の蒼と呼ばれている。
仲間を冷酷な表情で、元からあるカリスマ性をふんだんに使って指揮を取っている。
そんな玖渚友だが、今は一人の少年をいじめるのに夢中になっておられる。
「ってか、なんで俺の上に急にダイブしてくんだよっ!!俺はゲームしながらお客さんのつめったーい視線に必死に耐えながら友を大人しく待っていただろ!!このドS!!鬼畜!!」
「なんで所在にそこまで言われなくちゃいけないのかなこのバーカ。茶髪バーカ」
ああ、一応玖渚友の名誉のために言っておくが、本来、玖渚友は別に鬼畜でもドSでもない。
***
「いやー、にしても友ってさ…何かキャラ違くね?俺が知ってる玖渚友っていうのはなんかこうもっと大人しくてかわい」
「なんか言った?」
「すみませんでした」
拾ってあげただけでも僕様ちゃんに感謝すべきだよ!、と玖渚は俺をすんげー見下したような表情で言った。
ちっくしょー。これから上様って呼んでや「何か言った?」「何も言ってねーよ」
こっ、心読まれたッ!!
い、いつの間にそんなスキルを…。
俺は、半ば泣きそうになりながらも必死に玖渚を睨み付けた。
あ、そうだ。最初に言っておこう。
友が拾ってあげた宣言からわかるように、俺は別に、最初からこの俺の上で勝ち誇ったように笑う玖渚友にお世話になっていたわけではない。
きちんと理由があって、居候しているのだ。
俺は、前にいたところでは、独り暮らしをしていて、ふっつうーに中学生活をエンジョイしていた。
ちょっと変わっているとしたら、俺は中学生にして天涯孤独で、6年前…まあ、つまり6歳から7歳以前の記憶がない、のだ。
まあ記憶がない、と言っても、別に学力や一般的な常識的なことまで記憶がないというわけではない。
ただ、今までどういう生活をしていたかとか、どんな友達がいたかとかは全く覚えていない。
俺が、覚えているのは記憶を失う時に気を失っていたということだけで、気づいた時には病院にいた。
俺は何らかの事件に関わっていたのか、どうして記憶を失ったのか全く知らないまま退院し、ただ、記憶を失う前に死んだ親が残したらしい財産で生きてきた。
そして時が過ぎ、ちょうど五日前。学校の図書室で、戯言シリーズ(ああ、ちなみに戯言シリーズっつうのは俺のバイブルってか聖書?みたいな?)を読んでいた。先生が図書室を閉めるというまで。
図書室を出る頃、学校には、もう生徒は俺しかいなくて、俺はとりあえず一人で学校を出た。
その日は夕日がめちゃくちゃ綺麗で、「青春だぜ!!」って言いながら走り、自宅マンションの近くの曲がり角を曲がると…
いつの間にか城咲とあたりに書かれたでっかい高級マンションの前にいた。
そりゃあ最初は驚いた。
俺はマンションを見て唖然とした。「俺のマンションでっかくなってる…」と呟きながら何回もマンションを見渡した。
すると、マンションから誰か知らないお兄さんを連れた蒼い女の子が出てきたんだ。
見た瞬間、そりゃあもう驚くだけじゃあすまなかった。
だって今愛読中の小説のヒロインが目の前に!!
気づいた時には俺は走り出していた。少女のもとへ。
「ヘルスミィイイイイイッ!!」って叫びながら。
だって俺一文無し。
ポケットマネーなんかない。しかも何故か家なくなってる。
俺、貧乏。
しかも小説のキャラクターが何故か目の前にいる。
これをトリップと呼ばずに何と呼ぶ。
んでまあ、その後、俺に何故か興味を持った玖渚友は、俺をしばらく家に置いてあげるよ。ということになったらしい。
ちょっとしくじったなーと思ったことと言ったら…
「なんであんなにすぐに声をかけたんだ…戯言時代の玖渚友ならまだしも、今は超絶ブラック☆毒舌俺様街道爆走中前盛期の玖渚友だもんなー。今は顔を見るだけでもおぞましい」
「所在君、そんなに太平洋に突き落とされたいの?ドM?」
そう言って友は俺に乗ったままプロレス技をかけた。アレ、玖渚って非力っていう設定じゃいだだだだだいっ!!首閉まる!!
「だいたい所在が知ってる僕様ちゃんって、所在の世界、まあつまり異世界の本の話なんでしょー?じゃあ実際今いる僕様ちゃんとは違うかもじゃん」
「へー。玖渚友ってもう情報技術とかに染まりまくってると思ってたのに異世界とか信じるんだー。うっわー」
「君が私に話したんでしょう?初対面の私に」
蒼、降臨。
まあ、確かに異世界から飛ばされたとかそんな感じのことを話したのは俺だけど。
まあ、初対面のヤツに自分の素性をベラベラ話されたら信じるにしろ信じないにしろ、不審がるのは当たり前だろう。
と、いうか。
実を言うと、俺、トリップ時に持ってたカバンの中に戯言シリーズ入ってたんだよね。
だから俺は信憑性を高めるために、玖渚友が表紙のヤツを表紙だけ玖渚に見せた。
今はその本は、カバンに収まり、この部屋のはしっこに放置されている。
たまに友が俺のカバンをあさくって本を見ようとするから、カバンのふたにアクセサリーとして愛用していた鎖を巻き付けて、開けられないようにしている。
…それでもたまに興味津々に友が開けようとするから厄介だ。
「ねえねえ所在ちゃん。ちょっとその本見せてくれたりしないかな?」
「しねえ。ていうか、たぶん見たっておもしろくもねーだろうし意味ないだろうし」
「うに?だって未来が見れたりするんでしょ?楽しそうじゃん」
友は無邪気な笑顔を俺に向けた。
普通に笑っておけば綺麗なのにな。
「いや、たぶんこの本はもう未来も何も見れねーと思うぜ?」
「ん?どうしてかな?」
「俺がここに来たからだよ。第一、俺と友は絶対に会うはずのない人間なのに俺たちは出会った。その時点でもう未来が変わったかもしれねーじゃん。ああ、でも、玖渚友の若かりし腹黒魔王だった時の反省がしたいんだったら喜んで貸すぜ!」
俺は、たぶんすっげーいい笑顔で言い放ったのだろう。
だがそのせいで、また友からさらにプロレス技がかけられることとなったのは言うまでもない。
「いまさっきから腹黒腹黒ってさ、読者が聞いたら誤解するようなこと言うの止めてくれないかな」
「んだよー。事実を述べたまでじゃん」
「うっさい」
…笑顔が怖い。
友は俺の相手をするのがめんどくさくなったのか、「ふぅ…」とため息をついた。
ちょ、俺の顔に息吹き掛けんのやめてくれない!?
俺がめっちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた時、急に友が、あ、そういえば。と、何かを思い出したように言った。
「所在、今さっきさ、ここにいたりーちゃんさ、何か僕様ちゃんがこの部屋に入った時から異様に顔赤く染めてそわそわしてたけど…何かしたの?」
…りーちゃんって今さっきいた美形の兄さんのことだろうか。
まあ、チームの中の一人にはちがいないだろうけど。
にしても…顔赤くそめてた?
「…友がいないときに、そのりーちゃんと俺が目が合ってー、どうしようもないからにへらッって笑いあっただけだぜー?ハっ…!!もしかしてあの美人な兄さん…俺に惚れた…!?」
「なんで君と話すと全てギャグ思考に行くのかな…。めんどくさいなー。そうかもね。りーちゃん惚れたんじゃない?」
…え、いや、ちょまてい。
「ちょっと待て、友!!俺はそっちの世界には興味がないから引き込むなーーーーー!!!!!!」
「なんで僕様ちゃんが変態の道へ引き込んだみたいになってるのさ。…っていうか何でいつのまにかこんな話になってるんだろう…。だいたいさ、僕様ちゃん達、一体何の話してたっけ?」
友が冷静に突っ込んでいるが、俺はそうもいかない。だって別にBLに興味はねえもん!!
ノーマルだもん!ノンケだもん!
うぉーーー!!と、頭を抱えてる俺を友は「ハッ!!」と鼻で笑い見下した。
「逝ってらっしゃい。変態の世界へ☆」
最悪だこの人。
「あ、そうそう。今日はもう一人≪仲間≫の人が来るから、おとなしくしていてねー。くれぐれも!」
「…なあ、友、俺一人ぐらい話しちゃダメか?」
サイバーテロ…≪仲間≫の皆さん…。どんな奴らかすっげー気になる。
俺はワクワクニヨニヨしながら友に許可を求めたが、無理だった。
仕方ないから「友のバカーーー!!」って叫んでおいた。
友は、そのそろそろ来るロリコn…ゴホンゴホンッ≪仲間≫の人のための準備か何かよくわからないけれども、再びパソコン…いや、ワークステーションだったか。
素人の俺には全くわからないが、とりあえずそのワークステーションに向かった。
まあ、≪仲間≫と言っても、俺が直々に知ってるっていうのは小説に出てた兎吊木害助と滋賀井陶乃、そして−…式岸軋騎。
その三人以外は俺は名前しか知らない。
あ、式岸軋騎ってどんな容姿してたっけ。…ま、ヘタレオーラが溢れでてるやつが式岸軋騎か。
だから話しかけようと思っても話すことがないのだけれどもー…。
と、その時。
ピンポーンとインターホンがなった。
…ここってインターホンついてたんだ。一応。
「友、お客さん」
「あ。もう?」
友は苛つきを露にしながら小さい体を動かし、資料を整える。
急いでる割には今さっき俺で遊んでたじゃねーか。
友はインターホンがなったにも関わらず、玄関まで移動する気配はない。
これじゃあインターホンを付ける意味がないと思う。
しばらくすると、この部屋の扉の向こうから人の気配がした。
足音が徐々に近づいて来る。
俺はワクワクしながら扉が開くのを待った。
「暴君、入ります」
そう扉のまえから聞こえた。
友は、「いいよー」と返事をするとともに俺を睨んだ。
どうやらパソコンの前でゲームでもしてろとのことみたいだ。
俺はそんな視線には目にもくれず、扉を凝視した。
だって誰が来るかすげー気になるもん。
いよいよ、ガチャリと扉が開いた。
そこにいたのは、スーツ姿に長身で、碧の髪をした男。手には黒い、長方形の大きなケース。
「やあ、ぐっちゃん。よく来たね」
友は言葉とは裏腹に、ワークステーションの画面に顔を向けたままその男に声をかけた。
ってか…え?ぐっちゃん?
「ぐっちゃん!?」
ぐっちゃん…ぐっちゃんってさ…
誰だっけ。
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