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NRC女監督生の白昼夢
好きだから



――オンボロ寮。


寮に帰って、ジェイド先輩の言葉を思い出していた。

――後でお話があります。夜に寮の方に伺いますので、待っていてください。

一体何を言われるのだろうか。
構うなと言われるのだろうか。
距離を取れと言われるのだろうか。

「どうしたんだ?すっげー変な顔なんだゾ?」

グリムが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

『なんでもないよ』

不安を押し込めて笑顔を浮かべる。

『……覚悟を決めないと』

ドンドンとドアを叩く音がして、玄関へと向かう。

「こんな時間に誰か来たのか?」

『ジェイド先輩がね』

「ジェイド?約束でもしてたのか?」

『まあそんなとこ』

言いつつドアを開ける。

「こんばんはユウさん。グリムくん、ツナ缶をお持ちしました」

どうぞ、とツナ缶の入った袋をグリムに渡す。

「にゃに!?ツナ缶だと!?」

「グリムくん、ちょっと」

ジェイド先輩はグリムに何やら耳打ちをしている。

「そういうことなら仕方ない、オレ様は席を外してやるんだゾ。にゃっはー!」

ツナ缶をもらったグリムは部屋に引っ込んで行ってしまった。

「……こんばんは」

二人っきりになってしまった。

『……こんばんは、どうぞ上がってください』

「失礼しますね」

ソファーに腰かけるジェイド先輩にお茶をいれる。

『すみません麦茶しかなくて』

「いえ、お構いなく」

麦茶を出してソファーの隣に座る。

『…………』

気まずい。

「…………」

黙っていても仕方が無いので思い切って聞いてみた。

『話ってなんですか?』

「……何だと思いますか?」

聞き返されてしまった。

『うざいから関わるなとかそういう』

「そんなこと思ってません」

即座に否定される。

『じゃあ……』

「ユウさん」

名前を呼ばれて姿勢を正す。

『はい』

「貴女はバカですね」

『はい?』

バカ呼ばわりされる筋合いはない、はず。

『そんなことを言いに来たんですか?』

「ええそうです」

断言されてしまった。

「フロイドにいいようにされても文句も言わない」

言っても聞いてくれないのはフロイド先輩なんですが。

『言わないというか、意味ないというか』

「僕に好意を寄せているのに伝えようともしない」

『はぁ、え?』

なんの脈絡もなく私の恋心が暴露されてしまった。

「それは何故です?」

『何故って……』

突然聞かれたので思考が追いつかない。

「答えられませんか」

好きと伝えないのは何故か。

『私は……先輩から気持ちが返ってこなくてもいいからです』

大切なものが無くなった時、きっと私は正気ではいられない。

なら、最初からそんなものはいらない。

「手に入れたいと思わないんですか?」

フロイド先輩と同じことを聞かれる。

『大切なものは怖い……』

じっと先輩の目を見つめる。

深く暗い色と月のような金色の瞳。
この目が私を見なくなるのを恐れている。

それに……

『先輩を煩わせたくないんです』

弱みになるような大切なものはない方がいい、その方が悪党には生きやすいはずだ。

『先輩もわかっているでしょう?』

「わかりませんね」

背中と頭に手を回されて、優しく抱き込まれる。

「相手を想って身を引く気持ちなんて、わかりたくもないです」

『……そんな綺麗な想いじゃないんです』

そっと胸を押して腕の中から逃れる。

『ただの自分可愛さですよ』

逃れたのに、今度は肩を掴まれた。

「貴女はバカです」

さっきと同じことを言われる。

「本気になった僕から、逃れられるとお思いですか?」

脅迫ともとれる言葉なのに。
困ったように笑うジェイド先輩はとても悲しそうだった。

「怖がらずに僕を愛してください」

まるで呪いの言葉のように囁いて。

それから泣きそうな顔で先輩は笑う。

「僕は貴女を愛しています」

『……せんぱい、』

勇気が出せなくてごめんなさい。

臆病者でごめんなさい。

心の中で何度も謝ると、我慢していたはずの涙が心と共に溢れ出る。

『好きです、先輩』

心にストッパーをかけていたのは私の方だった。

『好きだから怖いんです』

大切なものをつくるのが。
それが失われてしまうのが、とてつもなく怖い。

「僕もですよ」

肩に乗った手に力が入る。

「だからずっと一緒にいましょう」

今はその言葉を信じて。

『……はい』

怖くなくなる日が来ることはないと確信しながら。

『ジェイド先輩』

「なんですか?」

涙を拭って笑顔を見せる。

『……大好きです』

そうして私たちは恋人同士になりました。

「僕も貴女が大好きですよ」

先輩、ジェイド先輩。

笑った顔がかわいいあなたが、私は大好きなんです。



fin


⇒おまけ 下ネタ&キャラ崩壊注意

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あきゅろす。
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