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刀剣男士と私の本丸事情
愛刀 大倶利伽羅の望み



――伽羅ちゃん、伽羅坊、伽羅!

俺を呼ぶ声が耳に馴染んでいる。

『大倶利伽羅』

伽羅ではなく倶利伽羅でもなく、大倶利伽羅とあんたが呼ぶから。

俺はあんたの大倶利伽羅なんだと、そう思える。

『悩みは晴れた?』

役に立たない刀など、不要だろう。
だからいくさに出たかった。

「悩んでなどいない」

刀である俺はあんたの道具でいい、そう思っていた。

『……道具は嫌だからね』

道具で在れるなら、そう在るべきだと思っていた。

「何が不満なんだ」

『今は付喪神で人と同じ姿なんだから、戦うだけが全てじゃないでしょう?』

馬の世話をして、畑仕事をして。

『一緒に美味しいもの食べて、見て聴いて、触れ合える』

言いながら俺の手を握る。
その手は未だ温まりきっていない。

「まだ冷たいな」

どれくらいここに独りで居たんだか。

『あ、ごめん』

ぱっと離された手を捕まえる。

「いい、繋いでろ」

小さなこの手を温めたかった。

『冷えるよ?』

「かまわん」

あんたの役に立てるなら、なんだって。

「なあ」

『ん?』

俺を見上げるその瞳に告げる。

「俺はあんたの大倶利伽羅だ」

あんただけの大倶利伽羅だ。

「……あんたの望みは何だ?」

『のぞみ……』

一瞬逡巡したかと思うと、繋いだ手をぎゅっと握り込まれた。

『私と一緒に生きて欲しい』

泣きそうな顔で笑うものだから、その頬に触れていた。

「そんなことでいいのか?」

道具だろうが家族だろうが、あんたの為に何かできるならなんでも良かった。

『そんなことって、大したことないみたいに』

あんたが俺を望むなら、なんだって良かったんだ。

「つまらんな」

『聞いといてそれ?』

少しむくれた顔が愛おしかった。

「ふっ」

『笑ってるし』

「……死ぬまであんたの側にいる」

俺かあんたがこの世から消えてなくなるまで、俺はあんたと共にいる。

『本当?』

「ああ、嘘は吐かん」

繋いだ手を引き寄せて、指先に口付ける。

――ちゅっ。

『もう、また不意打ちする』

不服そうな声すら心地良い。
これが愛というものだろうか。

「かまわんだろう」

握り直した手は少し温かくなっていた。

『いいんだけどね』

この手の温もりの様に、寂しいのも全部分かち合えればいい。

「……審神者」

繋いだ手をそのままに言葉を紡ぐ。

「俺の望みも聞いてくれるか」

――こうして触れ合える、この姿のままあんたの傍にいたい。

いくら考えてもそれだけだった。



<終>


⇒あとがき


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