[携帯モード] [URL送信]

刀剣男士と私の本丸事情
一刻前の鶴丸の心境



主を探していたのだが、見つからない。

「今日の近侍は伽羅坊だったか」

それなら向かう所は台所だ。


――台所。


「あれ、鶴さん?どうしたの」

エプロン姿の光忠が出迎えた。

「光坊、主がどこにいるか知らないか?」

「主なら伽羅ちゃんと万屋へ行ったよ」

一刻前くらいかなと光忠は言う。

「あちゃあ、一足遅かったか」

「今日発売の目薬を買いに行くんだって意気込んでたよ」

「今日ねえ……薬局は仕入れれば直ぐ販売だからなあ」

発売日はあってないようなものか。

「よく知ってるね?」

「地域によって発売日が前後するんだとさ、この辺りは前倒しってことだなあ」

それを聞いた光忠の頬がひくりとひきつる。

「前倒し?もう販売してるってことかな」

「ああ、昨日これを見つけてな。驚いたぜ」

袂から目薬を出して見せる。

「フライングゲットか、これはまずいんじゃないかな」

「まずい?」

「今日は完売の可能性が高いってことだよ」

万屋へ行った主が無駄足を踏むってことか。

「そのあたり考えてなかったなあ。俺の目薬しか買わず終いだ」

「自分のだけ?」

怪訝そうな顔で光忠は聞く。

「ある種の独占欲というやつさ」

「意味深だね」

「うちの主は伊達刀贔屓だろ?」

「そうでもないかな、長谷部くんは違うからね」

長谷部、大倶利伽羅、薬研……

「なら単純に主の好みの問題か」

「主の気持ちは、今伽羅ちゃんに向いてるよ」

そんなことは百も承知だ。

「欲しいなら奪うまでだ」

「そんな気もないのに?冷やかしって言うんだよそれ」

冷やかし、ね。

「はは、耳が痛いなあ」

「鶴さんの愛は、主の僕たちへの愛と同じに見えるけどね」

主のお気に入りになりたいと思う、この気持ちは一体何なのか。

「さてね。俺にもよく分からん」

「帰って来たら目薬、持って行くんだよね?」

「ああ、そうするつもりだが」

「だが?」

俺の目薬だけしか買って来なかったことを主は責めるだろうか。

「いや、そこまで頭が回らないかうちの主は」

「審神者ちゃんのこと馬鹿にしてる?」

光忠が珍しく突っかかってきた。

「懐が深いって誉めたのさ、そう怒るなよ」

これも主への愛というやつか。

「ふう……怒ってないよ。とっておきのやつを準備しないとね」

「準備?」

「もうすぐ帰って来るんじゃないかな」

目薬を見てきっと喜ぶであろう主の姿を思う。

「そうだなあ……」

胸があたたかくなった気がした。

「俺には分からんさ」

愛情の種類なんて。

「行ってくるぜ光坊」

「いってらっしゃい、鶴さん」

そうして俺は主の部屋へと向かった。



<終>


⇒あとがき


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!