[携帯モード] [URL送信]

刀剣男士と私の本丸事情
たぬき呼びは愛ゆえに



あんたの背中はいつも寂しそうだった。

――強さだけを求めてきた俺は、あんたにとっての何になり得るんだろうな。

言動で伝えられるようになったのは、俺を顕現させてくれたあんたのおかげだ。

敵をぶった切ってあんたを守る。

刀本来の役割以上に何かできるんじゃねえのかと、俺は思っちまったんだよなあ。



縁側に腰掛けた私は、手持ちの扇子でゆるゆると自分に風を送っていた。

『涼しくならないねー』

誰へともなくぼやきながら、太陽と自分との間に扇子をかざす。

暦の上ではもうとっくに秋のはずなのに、 空気はまだ少しむし暑い。

『……?』

ふと、人の気配がした気がして振り返る。

そこには呆然と立ち尽くしている同田貫正国がいた。

『同田貫?』

「俺はたぬきじゃねえぞ」

反射的に口を開いた彼の耳は、一体どうなっているのだろう。

『言ってないよ、呼んでほしいの?』

呆れ顔で私は聞き返す。

「言ってねえなら悪かったよ」

がしがしと頭を掻く姿は居づらそうだ。

『というかさ。私が目の前でたぬきって呼んだこと、一度もないでしょう?』

言えば同田貫はくっと笑う。

「今呼んだよなあ?」

明らかにからかい口調だった。

『なっ!今のは呼んだって言わない』

心外だと抗議する。

「はいはい、確かに一度も……」

はた、とそこで同田貫は気付いた。

「目の前でってことは、俺がいなけりゃ呼んでるってことか?」

じーっと見つめられて視線を反らす。

『さあ、なんのことやら……』

短刀たちが皆たぬきさんと呼んでいる。

だから仕方ない面もあるんだと、心の中で言い訳をしておく。

『あ、愛称は愛されているから呼ばれるものであって』

何を言い出すかと思えばと、じと目で睨まれた。

「名前に特徴があっただけだろーが」

それもそうなのだけれども。

『それでも呼ぶのは愛ゆえに』

暗に愛しているのだと言ってみる。

「はっ、なんだそれ」

鼻で笑われてしまった。

それでも怒っていないのだから、本当に嫌なわけではないのだろう。

持っていた扇子を閉じて声を掛ける。

『……隣、座らない?』

自分の右側をぽんぽんと叩いた。

「いいぜ。たいした話はできねえけどな」




[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!