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刀剣男士と私の本丸事情
チューリップの用途



花壇に居た長谷部が走って来るのが見える、私達に気付いたのだろう。

「……主っ!」

チューリップを一輪携え、颯爽と飛んで来た。

「おはようございます主、と大倶利伽羅か」

私に見せる為に摘んだであろうそれをそのままに、挨拶を交わす。

『おはよう長谷部、いつも花壇の手入れありがとう』

「いいえ、これは俺が好きでやっていることですから」

花壇の手入れは主命ではなく、長谷部が自ら志願して得た役割だ。

「綺麗に咲いたんですよ、どうぞお受け取り下さい」

尤も、他に誰も志願しなければ長谷部が担当する事になっていたけれども。

『ありがとう、可愛い』

そう言って受け取り、つるんとした花びらを大倶利伽羅にも見せる。

「紫か」

言って大倶利伽羅は長谷部を見つめた。

「なんだ?」

言葉足らずの視線に説明を加える。

『ふふ、長谷部色だなってさ』

数ある色の中からこの花を摘んで来たのは、きっと一番の花を届けようとしてくれたからで。

「俺色ですか、そんなつもりは……」

思った通り故意ではないことに少し寂しさを覚える。

『なかったって?……残念』

紫のチューリップはその深い色合いの通り、深い愛情を示すもの。

「残念、ですか?」

『紫色のチューリップにはね、特別な意味があるの』

不滅の愛、永遠の愛。
ずっと心を共にしたい人へと贈る花。

『私から長谷部に贈りたい花でもあるんだよ』

「一体どんな意味が……」

『内緒。知りたかったら光忠にでも聞いてみて』

直接伝えるのには少し恥ずかしくて、手に持っていたチューリップをくるくる回した。

「意地悪ですね」

『恥ずかしいだけだよ』

そういえば、と手に持った花びらを1枚むしり取って見せる。

『長谷部はこれのこと聞いてる?』

むしった花に文句も言わず、長谷部は聞き返す。

「何のことですか?」

『このチューリップの用途』

チューリップには使い道がある。

「観賞用では?」

『それもあるけど違うんだなーこれが』

観賞用ではないとすれば、と悩む長谷部の顔を眺める。
横の大倶利伽羅に目をやれば、じっと花びらを見つめていた。

『倶利ちゃんは分かる?』

「……ぼたんゆりだろ」

ぼそっと呟いたのは古い呼び名。

『うん、そう呼ばれてた時代もあったみたい』

「ならこうだな」

大倶利伽羅は花びらを持った私の手を掴み、引き寄せて……そのまま器用に花びらだけを、ぱくっといってしまった。

「もぐもぐ……」

『あー……』

これは怒るだろうなと、長谷部を見ると案の定眉間の皺がすごいことになっている。

「大倶利伽羅貴様っ!主に今何をしたっ……!!」

怒る長谷部を見なかったことにして、私も花びらを取って口に入れる。

『もぐもぐ』

二人で咀嚼している姿を見て長谷部は狼狽えた。

「ああっ!?主まで花をお食べになるなんてそんなっ、えっ?正気ですか、いや、でも!!無農薬で安全とはいえ、倶利伽羅貴様ぁ!?」

混乱状態の長谷部を横目に大倶利伽羅と意見を交わし合った。

『うーん……どう?』

「味がしない」

『そうだね、匂わないし』

薔薇の芳醇な香りに比べれば、チューリップの香りは無いに等しかった。

『ほんのり花の味がしないでもない?』

「曖昧だな」

単品で味を楽しむものではないと改めて思いしる。

『あー、でも肉厚でしゃきしゃき』

「食感は悪くない」

一通り感想を言い合って、長谷部ににっこりと微笑んだ。

『このチューリップはね、食用なの』

エディブルフラワー、食べられる花。




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あきゅろす。
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