刀剣男士と私の本丸事情
謝罪と当て馬
「邪魔するぜ?」
一言断って薬研が部屋に入っていく。
中に一期の姿は無かった様で、戻ってきた。
「いないのか?」
「どうだろうな、お、いち兄!」
盆に湯飲みを乗せて近付いて来たのは探し人だった。
「お茶を煎れて参ったのですが、やはり2人共来ましたか」
『だめだった?』
長谷部の服を掴んだまま問うと、くすりと笑われる。
「いいえ、皆でお茶にしましょう」
一番奥に私が引っ込み、隣には長谷部。
机をはさんで対面に薬研と一期が座る。
『……この度は多大なるご迷惑をおかけしましたっ!』
バンっと机に手をつき頭を下げる。
元はと言えば、私が薬研にレンタル彼氏がどうとか言ったのが悪い。
「「「!?」」」
「大将のせいじゃねえよな、ついったー見てただけだ、俺がいち兄に余計なこと言ったのが悪いんだぜ?」
悪かった、と今度は薬研が頭を下げる。
「二人とも頭を上げてください、その話に乗った私が一番たちが悪いのですから」
申し訳ないと一期も頭を下げるのを見て、長谷部はほとほと呆れたようなため息を吐いた。
「それで?皆自分が悪いと認めて気はすんだか?」
「そういう長谷部殿が、主殿を満足させられていないから起こったことではないですかな?」
一触即発。
『なっ、違う!』
「主の望まれることならば多少は目を瞑ろう。しかし今回は主が助けてと仰ったんだ、悪いのはお前だろう一期」
長谷部はキッと一期を睨む。
「長谷部殿がそんなだから、私がでしゃばることになるのが分からないのですか?」
「なんだとっ!?」
ぐっと一期の胸ぐらを掴んだ長谷部を薬研が止める。
「落ち着けよ長谷部、いち兄もあんまり煽るなよ」
長谷部の手を振り払って、一期は襟をただす。
「私は私の恋人が他の男に言い寄られるのを、指をくわえて見ているつもりはない」
ふっと視線を寄越した一期の表情は真剣だった。
さながら彼は、当て馬というやつを買ってくれたのだと今更理解する。
「それは狭量だからか?主が他に靡くことはないのだから、俺が出る幕は無い」
長谷部の私への信頼がすごいことに改めて気付かされる。
事実他に靡くことはないものの、助けて欲しい気持ちは無いでもない。
「主が俺を呼ぶのなら別だがな」
付け加えられた一言にくらっとした。
『長谷部ーっ!!!』
ひしっと抱き付く。
「なんだこのバカップル」
薬研の呟きは部屋に呑まれていった。
「ああ、本当に長谷部殿には敵いませんな」
さてと、と立ち上がるいち兄に薬研もついていく。
「迷惑かけて悪かった、じゃーな大将」
「なかなか楽しめました、私も失礼いたします」
2人はそそくさと部屋を出て行く。
長谷部と二人取り残された。
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