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刀剣男士と私の本丸事情
きんつばと一期一振



声は届かないまま後日。

「失礼いたします主殿、今よろしいですか?」

そっと障子を開けて入って来たのは一期一振だった。

『いち兄、もしかしてアレでは?』

「アレかどうかは存じ上げませんが……そうですな、おそらくは」

『薬研んんんん』

何を吹き込んだ。

「お茶など一緒にいかがですか?」

そろりと差し出される菓子器と湯飲み。

『ありがとう、いただきます』

ずずっと緑茶を飲んでじーっと一期を観察する。

「鳴門金時のきんつばをお茶請けに持って来たのですが、気に入りませんか」

手を付けない私を見て眉尻を下げるだけだった。

『えと、いただきます』

包みを取ってもちゅもちゅと頬張る。
広がるお芋の甘みが絶妙で、ほっぺが落ちそうに!

『おいしい……!』

「気に入っていただけたようですな」

良かったと漏らす一期に聞く。

『薬研に頼まれたとか?』

「頼まれたと言いますか、世話を焼いてこいと言われましたな」

なんだ、そうか。

『それでお茶を?』

「ええ、主殿が好きそうな菓子を持って行くなりあるだろうと言われまして」

薬研の解釈が斜め上に行かなくて良かった。
恋人してこいとか言ってなくて良かった。

『じゃあこれ、いち兄が選んでくれたの?』

「はい、僭越ながら私が」

よく私の好みを分かっていらっしゃる。

『とっても美味しかった、今までで一番好きかもしれないくらい!』

「そう言っていただけると、持参した甲斐がありますな」

嬉しそうに笑う一期に癒される。

『いち兄、今日はありがとう』

「主殿、」

『なに?』

急に真剣な顔になる。

「どうか今日はいち兄ではなく一期と、お呼びいただけますか?」

『えっ』

「今日は私が審神者殿の恋人というやつです、雰囲気だけでも楽しまれてはどうですか?」

にこにこと、やっぱり余計なことを吹き込まれていた様だ。

『いやあの、そういうのは』

キャラじゃない気がする。

「たまには私とも遊んでくれないと、拗ねてしまいます」

小首をかしげる姿が、かっ、かわいいっ!!

『いや、えーっと、私には長谷部という恋人が』

「気にしてはいけません」

『気にするよ!』

ああもうどうしよう!

「弟たちの面倒を見るのと同じようなもんです、気にしないでください」

100年の恋も一気に冷めるお言葉で。
このお兄さん、たまにものすごく辛辣だ。
天然なだけか。

『軽いノリだと?』

「そのようなものです」

これ、本物のいち兄だろうか。

『いち兄どこー?』

「私はここにおりますが」

自分の頬をつねると痛かった。

『いひゃい、本当だ』

「夢とでも思われましたか?元来私はこういう気質です」

うちの本丸の一期一振は軽いかも知れないです、何でかな!?

『嘘だあ!?』

「これもサービスというやつです、そんなに驚かないでいただけますか」

ああそうかリップサービス。
……サービス?

『あの、普通に……普通のいち兄がいいですお願いします』

理想がぶち壊れていくので軽薄な言動はやめていただきたい。

「そうは言われましても」




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