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刀剣男士と私の本丸事情
長谷部に起こしてもらう



「主、起きてください」

心地の好い柔らかな声音が私を呼ぶ。

「審神者様」

ふわりと前髪をかき分けられた気がして、うっすらと目を開けた。

『ん……』

さらさらとした鈍色の髪が視界に映る。

『はせべ?』

私は無意識のうちに、長谷部の髪へと手を伸ばしていた。

「……っ、」

サッとよけられ、手は虚空を掻くだけで触れるに叶わない。
仕方なく手を降ろして、じとーっと見つめてみる。

「おはようございます」

長谷部はといえば、私の視線を無視して挨拶をしてきた。
……ので、もう一度寝ることにした。

『オヤスミナサイ』

布団を頭まですっぽり被ろうと引き上げる。
瞬間、がしっと掴まれた。
――布団を。

「主、貴女が命じたんですよ。この時間に起こしてくれと」

確かに頼みはした。

『言ったけど、言ったけども!』

私の乙女心が、朝イチから傷付いたんですけど?!
……なんて鬼畜な長谷部。

「けど?何でしょうか」

とんと見当もつかない様な顔をしているが、内心分かっているに違いない。

『うぅ……酷い』

私は長谷部に恋をしている。

一目惚れではなかったけれど。
真面目で勤勉で主命大好きな彼を見ているうちに、いつしか好意を抱くようになった。

あなたを想うと胸が騒ぐ……なんてこと、本人には言えない。

「それで?今日は何をします?」

その言葉に続くのが、不穏な事柄で無くなったのはいつだっただろう。

「馬の世話ですか?それとも畑仕事?御随意にどうぞ」

『出陣とか遠征っていう選択肢は無いの?珍しい』

歴史修正主義者による歴史改変も、もうずいぶん阻止してきた。

「最近の主は、俺にそういったことを命じて下さらないので」

『そうだね、今の本丸は平和だし』

実際、行けるところまで来てしまった感が……こほん。

「主命とあらば汚れ仕事も喜んでお引き受け致しますよ?」

『間に合ってるから結構です』

まあ、つまりは暇な訳で。

『ってことでおやすみ』

再度布団を被ろうとするが、またもや阻止されてしまった。

「主、今日は予定があるのでは?何かは存じませんが、よろしいので?」

予定、予定ね。

『実は予定が無いって言ったら……怒る?』

淡い青紫色の目を見つめるが、そこに怒りは無く、ただ細められただけだった。

「いいえ。主命とあらば何なりと拝命致しますよ」

その面差しが思っていた以上に優しくて見惚れてしまう。

「……主?」

小首をかしげる長谷部がまた可愛く見えて、心臓が早鐘を打った。

『っな、なんでもない』

赤くなっているであろう自分の顔を隠そうと、今度こそ布団を引っ張ってみる。
けれども長谷部のせいでやはり無理で。

私は慌てて布団から這い出し、自室から出ようと襖に手を掛けた。

「待ってください」

くいっと手を引かれて、何事かと振り返る。

長谷部は怒ったような顔をしていた。

「その格好で行かれるんですか」

言われて自分の服装を確認する。
浴衣だ。




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あきゅろす。
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