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急いでYシャツを着始める岡田のために、奴の弁当もしまってやる。

「おい岡田弁当しまったぞって…え、Tシャツ着ないの」

僕が目を向けた時には、岡田はもう既にYシャツのボタンを閉め始めていた。例のTシャツはまだ床に無造作に置かれたままだ。


「うん暑いからもういらね」

「暑いからって…よう」

「あ、じゃあさーちゃんにやるやる。もらって」

岡田は布を拾い上げてこっちによこした。顔にTシャツがかかって、一瞬視界がモスグリーンに染まるが、ぱさりと僕の手に収まった。

「うわっぷ、汗くせーな」

「男臭だから気にすんなって」

「その日本語へんだよな」

引き戸を開け、足早に教室を後にする。

「でもさ、よく考えたらさーちゃんにはでかいかもだよなそのTシャツ」

僕は身長167cmで平均より少し小さいくらいなのに、岡田が180cm以上あるので小柄に見られがちだ。本人達にとったら、不思議なもんで身長差なんて余り感じないものだが、実際は服のサイズもかなり違う。以前岡田に体操服を借りて判明したのだ。


「やっぱそーかな…ブランドもんだから着てみたかったんだけどさー」

「お、ならさ、あげりゃいいじゃん例のカテキョに」

思わず岡田の顔を見つめる。何を言い出すんだ。どうして自分の嫌いな相手にわざわざプレゼントしなきゃいけないんだ…

「ええ…あいつにやるくらいなら寝巻きにするよ寝巻き」

うんざりした口調で答えると、俺よりも興奮した口調で

「いやわかんねーぞ、物もらって嬉しくない奴とかいないじゃんか。ってことはだぞ、仲良くなるにはやっぱプレゼントが一番手っ取り早いだろ一番」

と熱弁したのだった。

「そー簡単にいくもんかねー…物もらって仲良くなるって単純すぎる気が

「さーちゃん入学初日すげー冷たくてムカついたけど、ちょうど持ってたガムあげたら、すぐ懐いた」

「まさか俺で実証されてるとは」

忘却した過去の自分の姿を他者の記憶に見出す時がこんな風にある。そんな時はなんだか、照れ臭いような心地いいような不思議な感じだ

「うん、そういうことだ。このTシャツがお前とカテキョの架け橋になるのを願う」

ウィンクしてりつもりだろうが、両目瞑ってるよ岡田。いつも思うけど中々指摘し辛いので見なかったことにしよう

「てか別に仲良くならなくてもいーし…」
「あーもうくどくど言うなって〜だからさ…カテキョだろ?よく考えてみろよ、もしかしたらその、年上美人とよろしく出来るチャンスかもしんねーんだぜ?」

うはーAVかよ羨ましいなと隣で興奮しているところ悪いが、僕は冷え切った夫婦の片割れみたいに遠くを見ていた

「…なら岡田に紹介しようか」

「えっ…マジすか。いやいやわりーよ〜そんな親友のカテキョに手を出すなんかよ〜まアドレスくらい知ってていいけど〜」

今日一番の笑顔で遠慮する素振りを見せる岡田が、今日一番悲しく感じる瞬間だった

「まぁカテキョ、男だけど」

「…んだよつまんねー気持ち悪っ気持ち悪っ。早く言えよあー萎えた」

岡田の切り替えの早さと悪態のつきぶりに、思わず苦笑する。

ーやっぱこの反応が普通だ


「じゃあそのカテキョAB型だな、話を聞いてる限り」

「なんでいきなり血液型の話に…」

岡田が青い顔をしている。忙しいやつだ。

「や、絶対そーだよ!確実にABだな、変人で天才肌で腹黒くて、うわそいつこえーな!」

「えー…俺はA型だと思うけど」


「何よりの証拠は、さーちゃんの血液型がAB型ってことだ!うわ似てるちょー似てるわ!」




AB型に分類される全人類の人達に全力で謝れ馬鹿やろう





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