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さーちゃんは、その次の日から学校にきた。先生には「嘔吐下痢でした」って平気なかおで言ってた。あいつさすがだな。

昼休み、いつも通り購買に行こうかとさーちゃんと久しぶりに廊下を歩いてたら、ちっさいちっさい声で「おかだありがとう」ってぶっきらぼうにさーちゃんが言った。さーちゃんがありがとうなんて言ったの初めてだったから、俺立ち止まって「え?なんか言った?」って応えた。俺なりの照れ隠し&気遣いだったんだけど、さーちゃんは口を一文字にして、顔を赤くしている。しかもちょっと震えだしたから、まだ心の傷が癒えてないのかと哀れに思ってたら、キッと俺を見上げて、

「おかだ、ありがとう、お前のおかげで、たちなおれたから」


って、たどたどしいけど一生懸命、こっちをまっすぐ見ながら言うの。
なんか、友達というよりは、親の気持ちになってたよ。不器用でもろいのに一生懸命なとこがいとしくていとしくて。自分の子供だったらなにも言わずに抱きしめてたよほんと。
さーちゃんに言ったら、「子供扱いしてんじゃねー」って落ち込むだろうから、絶対言わないけどさ。




それからずーーっとさーちゃんと仲良しだ。高校生になって、また制服がブレザにーなっても、俺にもさーちゃんにも、新しい人との出会いがあっても、変わらず近くにいる。


もっぱら最近は、さーちゃんの家庭教師が変なやつだってことで盛り上がってた。
あのさーちゃんが他人のことでうんうん唸ってたから、二人で作戦考えて、あげく合コンに参加させて。


初めて見た例のカテキョは、イケメンで、やっぱへんなやつだった。俺とかヨシヒサがガキに見えるくらい大人のおオーラを撒き散らし、メス共を虜にし、猛獣も操っていた。只者じゃねー。俺らがかなう相手じゃなかった。

で、そのカテキョが、さーちゃんにこくった。

展開がはやすぎるって?だってそうだし。俺の話し方が下手なわけじゃないよ。このイケメン爽やかオラオラグイグイのイケメントーク術で食ってるようなもんだからね自慢じゃないけど。



いやーでもびっくらこいたね。あの場で俺が一番テンぱってたよ。
静まるかえる場の中で「よ!ご両人!」ってわけわからん合いの手を入れた俺をころしたいね出来るなら。


あんなイケメンなのに、男が好きだったのか。
いやモテすぎて女に飽きたのか、知らんけど。でもさっきまで色目全開で騒いでた馬鹿女まで青い顔してたのはいー気味だった。


さーちゃんは、いつも通りよくわからん顔してた。
でもなんとなく、今までの俺の経験からして、たぶん心の底から嫌がってるとかそんな感じの顔ではなかったから、おっけーってことだったんだと思う。


あの日から、さーちゃん達は付き合ってるらしい。合コンからしばらく経って、ふいにさーちゃんに言われた。ほんとにあの日から、付き合ってるんだって、静かに言われたら俺、からかいようもない。
正直マジかよーーーーって思って心の中では祭りみたいにわっしょいわっしょいってもう一人の俺がみこしをかついでたんだけど、微笑み返して、でかしたって言った俺、えらい。
家に帰ってまた冷静に思い返して、チューとかしてんのかなって考えて、きもちわるくなってやめた。


ヨシヒサは、あのあとから学校で話してても、露骨にさーちゃんを避けてた。さーちゃんは気にしてなかったぽいけど、友達の俺としては、あんまり気分いいものではないので、そこは友達としてたしなめといた。

ガキじゃあるめーし、もっと自然にしろよって、男だろって。

そしたらヨシヒサが、
「だって男だぜ?」
って小さい声で言った。
言ってる意味がやっとわかって、俺はため息をつく。

「ゴメン、でもさ…、岡ちんはきもくねーのかよ、俺まじそーゆうの無理なんだもんマジで」
って半べそかいて言うから、俺もなんも言えなかった。
バカ、きもいかきもくないかって言ったらきもいに決まってんだろが。
ヨシヒサはバカなやつだけど、嫌なやつじゃないことは俺だって、さーちゃんだってわかってる。いくらなんでも無理っていう相手にこっちの価値観を言ってもかわいそうなだけだ。
でも、ヨシヒサなりにわるいとは思ったらしく、それからは挨拶くらいは頑張るって言った。少しだけ、この二人にてるんだ、なんか意外と根がまじめなとこ。

「あいつ、男が好きだったんかな」

「さー?でも何にせよ俺らには関係ねーべよ」

「関係…ねーのかなぁ」

疲れた顔でヨシヒサは廊下を歩いていった。
俺は、どことなく寂しそうなその背中をただぼんやり見送るしかできなかった。


さーちゃんは男が好きなのか、それともただ単にかてきょが好きなのか、それともただの興味本位の気まぐれなのか、本とのことはわからないけど、どっちでも関係ないから、まだ俺ら一緒にいるんだ。

だってほら、俺ら、ダチだもん。




だから、あのとき泣いてるさーちゃんを見て、感じた気持ちも、奇妙な体験として、墓場まで持っていくとしよう。てゆーか、さーちゃんとかてきょのことを完全に否定できないのは、あのときのへんな気持ちを俺も知ってるからなのかもなぁ。


男が男を好きになることも、別に、間違いじゃないのかもね。






前髪がすっと梳かされる。答えの出ない考えごとをシャットダウンして、俺は目の前の若作りの美人を少しだけにらむ。口に手を当ててクスクス笑うその女に一瞬だけ凶暴な悪意が顔をだしそうになる。ふー。

「こら、言ったでしょ髪触られんの嫌い」


「怒んないでよー、今日変よ岡田君。やつあたりしてるの?」


うっせーなぁ。



「俺前に、髪触られるのも触るのも無理って言ったじゃーん」


「そうね、ゴメンね」

細い腰を引き寄せる。うれしそうにしやがって。つまんねーなぁ。
女って何でもわかってるような顔して、結局あんまり頭よくないとこが俺はいいと思うのよね。子宮でものを考えるってちょー名言じゃん。



「ねー何考えてたの」


あのあられもない泣き顔が、一瞬だけ浮かんですぐ消える。



「内緒」




なんだかんだ本人達が幸せそうなら、それもありかなぁ、いや、でもやっぱないよなあと思う、今日この頃。


僕岡田、さーちゃんの親友。






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