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やっぱり岡田にも僕には言えない秘密あるんだなって、再確認して少しだけ、凹む。そりゃそうだよ、人に言えない秘密くらい持ってて当たり前じゃんか。ヨシヒサにあんなでかい口利いといて、こんなんおかしい。
でも、岡田はいつも肝心なことは言ってくれないんだ。女子みたく、距離を近づけるために悩みごとを相談しまくってほしいって言ってるわけじゃない。けど、あんまりなんにも言われないと…一緒にいるけれど実は心を開いてないんじゃないのかって時々思ったりして、自分の女々しさを呪いたくなる。さっぱりとしたお互いの自由が尊重された付き合いに憧れているのに、相手に深入りしようとしている現実の自分との差にいつも苦しむんだ。

かく言う僕はちゃんと言えてるのか?彼に悩みを打ち明けたりしているのだろうか。自分のプライドが邪魔して、打ち明けることを恐れていないか?ヨシヒサの「それでもお前ら友達かよ」って言葉が今更になってずっしりとのしかかってくる。

「…じゃあ、さーちゃんの秘密は?」

心臓が大袈裟に跳ねる。声の主…ゆーくんがまた例の射抜くような目で僕をみている。え、今さーちゃんって、言ったよな。どうして、こんなみんなの前で、どうしてこのタイミングで…。笑ってた皆も、ゆーくんの視線を追って、僕の方を見つめる。

「あれ?…笠原さんと悟くんって知り合いなのー?」

セリカちゃんが僕とゆーくんを交互に見て、首を傾げる。

「あ、言ってなかったね。俺カテキョのバイトしてるんだけど、彼は俺が受け持ってる生徒さんのひとりなんだ。だから今日偶然会ったときはびっくりした」

確かにびっくりしましたよ、ええとても。久しぶりに会ったあれ、さっきまで僕なに考えてたっけ、そうだ岡田の…え…だめだ「とんだ猛獣使いだぜ」のセリフしかでてこない。どうしよう、すごく大事なことだった気がするのに

「えーすっごいぐうぜーん!笠原さんなら教えるのすっごく上手そうだし、わたしも勉強みてもらいたーい!」

…じゃあそれは後で思い出すことにして、秘密の件だ。なんて、何を言えばいいんだ。ないことはないけど、たぶんこの場で言っていい秘密と隠すべき秘密があるはずなんだ。か、考えろ落ち着け、当たり障りのないことを言えば良いんだ、とっさにぺろっと嘘ついちゃえばいいんだ。虚言は得意なはずだろ。

「あはは、ありがたい言葉なんだけど今抱えてる生徒さんたちで俺の方が手一杯なんだ。ごめんね」

何を言おうか何を。

「もうさあ、なんでもいいから初恋の人とか適当に言っちゃえば?」

たぶん周りから見ても挙動不審であったろう僕に、席替えするまで僕の前に座ってたあの子がつまらなそうに言う。あんたの言うことなんか誰も興味ないんだからもったいぶるなよって言いたげな目だ。
…この目、苦手だ。

「あーそれでいいじゃんっ!ね、笠原さん?」
「うん。俺も興味あるなー君の初恋の人について」
「じゃあ悟くんどぞー!」

ゆーくんには楽しそうに頬杖をついて僕の方をみつめてるし、セリカちゃんに至っては、ゆーくんの仕草の真似なのか頬杖ついた上に小さい顔を乗せてニッコリ微笑んでいる。他の男子メンバーに助けを求めたくてアイコンタクトをとろうとしても、岡田もヨシヒサも我関せずって感じなのか、あさっての方向を向いて何も言わないし、何なのこの四面楚歌。

「いやいや、ほかの秘密にしません?俺の初恋とかほんと聞くだけ無駄だしつまんないだけっす」
「話してよ。笑わないから。どんな子だったの?」
「…お、幼なじみでした」

ゆーくんの質問に条件反射で答えてしまった。いや、僕がよっぽど従順みたいに…まあ否定はできないけど、ゆーくんに話せって言われて話さない人いないんだって割とマジに。誘導尋問とか絶対得意なんだってこの人。でもあのときみたく、ゆーくんが続きを待っているから、僕は。


「…ぼくの片思いでした。いつか想いを伝えるつもりだったのに、そのいつかをさきのばしにしてて、やっと想いを告げる決心をしたときは、引っ越して行ったあとでした」

思ったよりも皆真剣に聞いてくれているような気がした。でも話は終わったのに、誰も何も言なない。なんだこの空気。

「…以上です」

ヨシヒサが大袈裟に椅子からずり落ちる仕草をする。は、なにしてるんだこいつって思ってたら、ゆーくんが閉ざしていた口を開いた。

「なんの落ちもないね」
「はあ、スミマセンなんか」

落ちを求められていたのか。なんだか申し訳ない。

「ちょお切なーい!」

女の子たちは普段そういう「セツナイ」恋愛話に慣れているのか、セリカちゃんを筆頭に、皆一様にかなしげな表情をつくる。女の子は共感の生き物っていうけど、ほんとそうみたいだ。薄っぺらい同情が、今はすこしだけ、ほんの少しだけ、ありがたかった。

「お前そんときからヘタレなんだなー、うけるー」
「お前と違ってピュアなんだよ、穢れの塊が」
「てめー!はらたつ!」

なんでかわからないけど、ヨシヒサが茶化してきてそれに応戦してる様子を、ゆーくんがじっとみているような気がした。


「じゃ、残りの命令も全部おわったことだし、新たにやりましょー!」

セリカちゃんが、礼の割り箸のくじを取り出す。歓声があがる。さっきよりも女子のテンションが高いのは気のせいじゃないはずだ。きゃあきゃあと女子たちが盛り上がる中、男子高校生チームはおそろしいほど静寂を保っている。

まわってきたくじを嫌々ながらも引く。
うわ、縁起わるいことこの上ない。
岡田とヨシヒサが僕のひいたくじを覗き込む。
「さーちゃん縁起わるいな」
「ざまーみろー!きっとおまえの死に直結するぜ次の命令」
「うっせ、見んなよばか!もしそーだとしても道連れにしてやるからなてめーら!」

男子の醜い足の引っ張り合いなど知らんぷりで、女子たちは一斉に声を合わせる。

「せーの、おーさまだーれだっ!」


「はーい」

全員の息をのむ音が聞こえてきそうだ。仕組まれたような偶然。
なるべくして王様になった彼はゆったりと優雅に手を上げ、残酷な審判を下されるのを待つしかない哀れな民衆たちを、穏やかな顔で見渡す。


「…んーと、王様の命令は絶対なんだよね?」


言葉を発することを禁じられてる訳でもないのに、皆首を縦に振るだけでその質問に答える。いきなり静かになったのを不審がったのか、近くにいた店員がちらりとこっちのテーブルを見るのが見えた。店員さんも大変だなぁ





「4番の人が、俺と付き合うってのはどうかな」






めまいが、した。



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