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「岡ちんよお…なんかよくわかんないけどさあ…」

「うん」

「もしタイムマシンがあったら何分か前の自分に会って、ハーレム楽しんでないでさっさと誰かと抜けちゃえよって言いたいよ」

「だな…。さーちゃんよお…なんかよくわかんないけどさあ…」

「うん」

「俺もタイムマシンがあったら何分か前の自分を穴に埋めたいよ」

テーブルの向こうに背を向け肩を落とす岡田とヨシヒサ。僕の目の前には、さっきまでの威勢のいい姿はそこにはなく、テーブルの向こうからまわってきた手羽先をほおばることで存在意義を辛うじて保つ愚かな若者たちがそこにはいた。薄くなりかけたグレープフルーツジュースを音を立ててすする僕。こんなん、分かってたことじゃないか…

テーブルの一番端に座る僕とはちょうど対局の位置、つまり僕と向かい合う席の一番端に座る彼をちらりと見る。女子はきっとこの席順に満足していると思う。勿論ゆーくんの向かい側にはしっかりセリカちゃんが陣取り、その周りにを囲むようにして他の女子も腰を下ろしている。岡田のことを気に入ってるような素振りをみせていた岡子さえも、隣の人の話に相づちを打つのに必死だ。だからペコちゃんは頭ゆらしすぎなんだってば。

「えーていうか笠原さんすごおい!あの大学通ってるって、めっちゃ頭良いんですねー!」

「や、普通です。ていうか俺やっぱり完璧邪魔してない?他の男の子端っこにいっちゃってるじゃん」

「えーそんなことないですよお!ちょうど席替えするタイミングだったよねーヨッシー?」

「そうっすよー!ばんばん話しちゃってくださいよー」

セリカちゃんに合わせてテンションは高いものの、目が完全に死んでいる皇帝。見ていて悲しいものだ。皇帝から視線を逸らし岡田をみると何やら嬉しそうに体を震わしている。ていうかお前ずっと僕がそっちみるの待ってたんだろ、そんな震えながらドライアイの目えキラキラさせて…絶対今まばたきしたいくせに無茶しやがって…。僕と視線が合ったことを確認すると、岡田が待ってました言わんばかりに口を開く。

「やっべえ!オレ思いついた!飯食いにきたと思えば辛くねえ!全然辛くねえゾ!」

「…泣いてもいいんだぞ」

ヨシヒサの肩に顔を埋める岡田。付き合いきれない。

「えーていうか笠原さん彼女いないんですかー?」

甲高いセリカちゃんの声が飛び込んで来る。質問の内容に、僕は思わず顔を上げる。質問された本人笑ってるし。…いるのかな?

「ふははーどうだろー」

「えーその反応いるんですねー?」

俺が思ったことと全く同じことをきくペコちゃん。

「さー見栄はってるだけかもしれないんじゃない?」

自分で言っておきながら否定するようなことを余裕の表情で呟き、ゆーくんは微笑む。焦れったいなどっちなんだよまったく!一喜一憂する様をみせないように、僕も目の前の手羽を食べることに夢中の振りをする。ああうまいうまい、うまいな

「…さーちゃんそれ俺の食べ殻だったんだけど…え…骨までしっかりしゃぶれってこと?」
「お前ひもじいんだったら俺のやるから目の前で情けないとこ見せんなよ…」

岡田とヨシヒサがどん引きしている。僕は静かに持っていた鳥の骨を置き、何事もなかったかのように、もはやグレープフルーツ風味の飲み物と化した液体を飲む。

「…間違えただけだよ」

おい待てお前らさっきまでお前らのほうが哀れさ半端無かったんだぞいつの間に…
「ねー!そういえばさっきさー王様ゲームしてたよねーまたしよーよお!」

セリカちゃんの提案に皆一様に戸惑っているようだ。確かにさっき途中だったけど…なんか流れ的にもう終わってものとして認識されていないか?なんでまた急に、流れを戻そうとしているのだろうか

「ねー笠原さんもやりますよね?」

「まあやれと言われれば」

なるほど王様の権限で洗いざらいゆーくんにはかせようっていうのか。なるほどさすがだ、ずる賢い。だがそれはいい方法だ。いいぞセリカちゃんいい作戦だ、僕は評価する!やったれやったれ!

思いがけない僕の支援(伝わってない)を一身に受けて、セリカちゃんがまた流れをつくる。楽しくねーことやらせんなよと密かにヤジを飛ばす岡田にはおかまいなしに、何分か前にもみたクジをノリノリで取り出す女の子達。

「え、てかさっきなんかの命令の途中だったっけ?」

さっきまで僕の前に座っていたあの子がぼんやりと口にした言葉を、セリカちゃんが素早く振り向いて
「でも流れちゃったしまた最初っからにしよおよ」と制する。一瞬目がマジだったのを僕は見逃さなかった。もうやだ女子ってほんとこわい

「あ、なら俺なんか気にせずその続きから始めてくれていいよ」

「えー大丈夫ですよー!みんなその命令もなんか飽きぎみだったしー」

「や、ちょっと待ってよ。なんかどんなテンションで望んでいいかもわかんないし、そもそも皆が先に楽しんでたのに気使われてるみたいで嫌だな。だからその続きやってよ。…だめかな?」

断られるはずのない絶対的な自信がこめられた「だめ?」に僕は聞こえた。セリカちゃんよりもへたすりゃ手強いぞこの人。セリカちゃんちょっとほっぺ赤いし。なんかかわいらしいなって思ってしまう僕はほんとなんなんだろうか

「そーですよね…おてほん…あったほうがいいですよね。うんうん!えっとお、さっきどこまでいったんだっけ?また続きからやろっかー」

でもすごいな。平和的な解決にはやっぱり愛が必要なんだな、なるほど。なんでも言うこと聞いちゃうよ!わんわん!ってか。

「とんだ猛獣使いだぜ…」
岡田が達観した顔で呟く。ジュースを噴き出しそうになるのを必死でこらえてなんとか飲み込む。僕にも気付かず、岡田は最早超人をみるような、敬意のこもった目でゆーくんを見る。手羽置けよ。

「ごめんね無理言っちゃったかな」
「えー全然気にしないでください!途中だったしみんな気になってるかもしんないし!」
「ありがと」

ゆーくんがゆったり微笑む。セリカちゃん、時間が停まってる。いや見とれてるんだ彼の微笑に。

「とんだ猛獣使いだぜ…」
また岡田が呟く。だから手羽おけよ、だめだへんなとこにはいる。笑っちゃいけない、笑うもんか

「俺らがかなう相手じゃねえぜ割とマジに…」
なんで無駄に横顔で語るんだよ。耐えきれなくてごほごほとむせ返ってジュースの飛沫を飛ばす僕のことなんかには見向きもせずに話はすすんでいく。

「あーそうだー。さっきアタシが秘密暴露してからーそれでとまってたよねえたぶん。そうそう」

「じゃあ残りの人…岡田くんと悟くんの秘密暴露の番だよねー。わー」

本人はそういうつもりはないだろうが、やる気のないかけ声をセリカちゃんは発する。岡田と僕は顔を見合わせ互いに首を振る。しまったのんびり構えていたけれど、まさか自分に被害が及ぶとは思ってなかった。

「じゃあ岡田くんからーどぞー」

皆が岡田の言葉を待つ。何て言うんだろう岡田は。

「えーんー、ない「…は無しだよーお!王様の言うことはー?」

「…信じるな」
「違うよーぜったい!だよっ。だからー、無しは、なーしね!さー早く言ってよお岡田くん皆待ってるよお?」

絶好調のセリカちゃん。堂々と舌打ちする岡田。段々隠さなくなってきてるみたいだ。

「…マジで特にないんだけど」

「特にってことはちょっとはあるんでしょ?はーやーくー」

あら、やばいんじゃないのかこれ。明らかにいらだってる様子の岡田。彼が極たまーにみせる、機嫌の悪くなる姿は、僕も少しひやりとしていまうほどの剣幕があるのに、彼女はそれをもろともしない。


「…ピンク」

「えー?」

「今日の俺のパンツの色。言っちまったーやっべーちょお恥ずかしー」

「えー聞きたくなーい秘密にしといてよおー」

その場がドッと湧く。…話逸らすの本当にうまいんだよなあ。ほんとの秘密なんか喋ったらどん引きだぜー!とか言って大笑いしている彼をみながら思う。僕だって少しは知りたかったよ、お前の秘密。


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