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「…こっええーーーー!女子こえー!」


シンとなった空気を明るくするように、ヨシヒサがはしゃいだ声を出した。若干上ずってるようにも聞こえたが、演技かもしれない。なんせ皇帝だし女子に甘そうだし。僕はといえば、序盤よりもこの場の雰囲気に開きかけてた心を、内側から南京錠をかける勢いで閉じてしまった。
怖すぎる。何、今の女の子たちってそんな残酷なこと平気ですんの?や、みんながみんなってことはないと思うけどさ。だって自分がイジメの着火材になったことを普通、こんな場で嬉々として話すか?それとも自分が立派な加害者だっていう自覚がないのか?過去は過去でその人の一部分でしかないのは分かってる。でも「一は全、全は一」って言葉があるじゃないか。そんな残酷な一面があって、大して改心もしてなさそうな人と僕は友達になれない。岡田とかに比べて人の器がちっさい僕は、過去のことを帳消しにできるほどの強さは持ち合わせていないんだ

「もーヨッシー昔のことだもんー今結衣たちも反省してるよーみんな引かないでねー」

…だったら最初から話すなよ。僕は胸糞の悪い話を忘れるように、側にあった飲み物を取り胃へと流し込む。最初は味なんて気にする余裕も無かったが、段々カフェオレに似たあまったるい味が舌先を柔らかく刺激するのを感じた


「うーんセリカねー気分屋なんだーB型だしー」

ここにきて当事者中の当事者であるセリカちゃんが満を持して口を開く。
何を言うかと思ったら、なんだこの子。だからって自分のやったことが正当化されると思ってるのかよ。
この前ゆーくんに血液型がどうの言ってた自分もこんな感じで相手の目に映ったのだろうか、しにたい。

「B型の人に怒られちゃうよー?」

「言えてるー」

この4人の女子の中のリーダー格であろう二人のことでもあるので、他の女子二人は引いてるというよりも、反応に困っていたようだ。セリカちゃんの言葉に、当たり障りないコメントを親切に飛ばし、曖昧な笑みを浮かべて言葉の続きを待ってるようにみえる。たぶんこ子たちのグループの中にも暗黙のルールがあるんだろうな

なんて真面目にあほくさいことしてるんだ、このこたち。

またカフェオレまがいな液体を口に含む。喉を上下させる度、思考にほんのりもやがかかっていくような気がした。このままいっそ、余計なことを考え始めた脳みそにフィルターがかかってしまえばいい、


「前から気持ち悪いとは思ってたんだもん、だってめちゃくちゃ視線感じるんだよ?食欲なくなるくらいすっごいストレスだったんだからね。あーやだもうやめよー!ちいちゃんのこと思い出したらご飯まずくなっちゃうよー」

「うわ、セリちゃんマジ容赦ねー!」

あれ、みんな、笑ってる。
そうか笑うほど滑稽なのか。


そうだよなあ、同情とかで僕がくるしくなる必要ないんだ。

「ちいちゃん」は「じめつ」しただけだ。







同性を好きになるってことはこういうことだろ、なあ、








「ちょ、大丈夫か?まさかもう酔った?」

岡田が僕を覗き込む。どうせおまえだってさっきわらってたんだろ、なんでそんな平気な顔してるんだよ、おぞましい、おぞましい、おぞましい

「いやいや酒飲んでないよ」

岡田の声がでかいせいで、それぞれで談笑してたはずのみんながこっちの方に視線を向ける。

「そうか?すっげー顔色わりーぞ、さーちゃん」

「そういや若干胸が競り上がってきて第二のおっぱいができるような胸糞悪い感じがする」

「第二のおっぱい?おいまじで酔ってるんじゃ」

「だから飲んでないっつてんだろ。グレープフルーツとここにあったカフェオレみたいなやつしか」

いけないまた岡田に対して口調が鋭くなってくる。さっきの話題に固執して勝手に怒って馬鹿みたいだ。なんで僕は学習しないんだ、情けない。

「それ…あたしが頼んでたカルーアミルクのことじゃ…。注文して運ばれてきたはずなのに無いなーとは思ってたけど…」

前の人が怪訝な顔で言う。てことはあれもお酒だったのか?不覚。そりゃそうかここにきてカフェオレ頼むやつがどこにいるんだ。しかしまぎらわしいとこに置きやがって。そんな顔したってもうカルーアミルク?は戻ってこないんだぞ馬鹿めざまあみろ

「スミマセン…その分お金ちゃんと払うので、ご検便、いやご勘弁を」

「…は?てか飲み放題コースだし」

すべった。前の人の軽蔑の視線をもろともせず僕は立ち上がる。幸い足下はふらつかないようで安堵した。

「でもちょっと気分悪いから外の風に当たってくるよ」

「ちょ、さーちゃん大丈夫なんまじで」

「や、ほんとに小丈夫です」

「あんまりだいじょうぶじゃないってことか、よし俺ついて行こうか?」

女の子じゃあるまいし、岡田が僕を介抱するいみがわからないぞ。

「や、わるいよ。すみませんみなさんはたのしんでください。岡田、おれは行ってくる」

「わかった。でも…戻ってこいよ」

「戻ってくるさ不死鳥のようにな」

ポカンとした顔をした前の人に一瞥くれてから僕はのっそりと席を立ち、入り口の方へ歩いた。



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あきゅろす。
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