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…なんだ、今の、軽やかで優しげな声のトーンを裏切るような暴言は。まさか僕に向かって?なんてやつだ。許せない懲らしめてやる嘘ですすいません
近くから聞こえた謎の声にびびった僕はそろそろと上体を起こし身を縮め、横目で辺りを探る。どうやらガードレールに寄りかかって電話していた人物から発信されたようだ。いつの間にか周りには僕らしかいなかった
「んー…謝って済むと思ってるからまた同じこと繰りかえすんだよ。だから許さない」
そうだ確かに口調は柔らかいけれど、僕にはわかる。
この人、間違いなくサドだ。
しかしなるほど、嫌みたらしいけど一理あるな。過ちを繰り返すってことは、さほど反省していないかもしくは愚鈍どちらか…。
なんか自分に帰ってきそうな言葉なのでここらへんで考えるのをよそう。もう今日は十分追いつめられたんだから少しは自分に優しくしてもいいだろう。うん
「ふぅ…」
話がついたのか、はたまた会話の途中で電話を切ったのかそんなことは知らないが、例の人物の通話が終わったらしい。ていうか、なんだろう。すごく似ている人を僕は知っているんだ。思い出そうとしたらふわふわした後ろ姿しか出てこない。いや有り難いことに脳みそがストップをかけてくれてるんだ。思い出してしまったらなんか肺が、胸が、心臓が、苦しくて仕方なくなるから。
僕は邪念を振り払うかのごとく、体重を預けてた後ろの植木から飛び起きる。さっさと岡田たちの元へ戻ろう。でまた前の人の冷たい視線に耐えよう
するとガードレールに寄りかかっていたままの人物が、ふいに顔を上げた。目線が交わる。
僕は、目を逸らせない
向こうも目を逸らさない。
こんな偶然があるものなのか?
「…ゆ、
「よーさーちゃんだいじょぶかー!心優しい岡田くんが水持ってきてやったぜ、えーいいよお礼なんか俺たちの仲じゃん?まぁ最近新しいヘッドフォンがほしいとは思ってたりする昨今!」
久しぶりに殺意を覚えた瞬間だった。突如植木の背後から現れた岡田がわざとだろう、勢い余って僕にぶつかり、ふいをつかれた僕は前へ押し出される形でその人物に接近する。
「…あれ、どっかで見た顔だと思ったら」
周りの景色が不明瞭になって相手だけが鮮明な像となり、僕の視界を支配する。なんてきれいなんだろう。服装もいつものラフな感じではない。今日は…なんだか…色っぽいぞ。ジャケット効果だろうか、微妙に髪の毛もセットしてるし。そのとき僕の心に不穏な予感が霞めた。一体誰と会う約束をしていたんだ?いや何を気にしてるんだ、恋人じゃあるまいし。
そうはいっても、僕は。
正直、この人に会いたくてたまらなかった。
と、とりあえず返事をしなければ。僕はなんとか口を開こうとあごの筋肉を下へと引っ張る
「…ばんは」
前の方がかすれて、うまく声にならなかった。
「ばんは。あれ、きみここで何してんの?」
「ゆ、ゆーくんこそ」
「まだそれ言う?…俺は人と待ち合わせしてたんだけど、相手が遅刻するらしいから帰るとこ」
機嫌があまりよろしくないのか、素っ気ない言い方をしてガードレールから立ち上がる、ゆーくん。ドタキャンされとかいって、ほんとはこの前の件のせいだったりしてとかまた後ろ向きになる僕。
あっそういえばこの前はすみませんでした、友達に送るはずだった筈のメールを誤送信してしまってドッジー!
よしこれでいこう言うんだ悟!
「じゃ、またね」
「あっそういえばこ…え、帰るんですか」
「俺さー待たされるの嫌いなんだよね」
「さーちゃん知り合いなん?」
岡田が耳打ちする。ゆーくんの前なのにちょっとやめてほしいとか思ってしまう
「う、うん。俺が今勉強みてもらってる家庭教師の…」
「あ!カテキョの!てことは…ええっ!?例の?」
「例の笠原雄太です。よろしく」
「さーちゃんの親友の岡田ですヨロシク!てことで、もしヒマなら笠原さん合コンに参加しません?」
…ん?
「…はい?」
きょとんとした顔をするゆーくん。当たり前だ!僕は血相を変えて岡田に耳打ちする
「バカやろう!何考えてんだよ!バカほんとにバカ!俺もバカ!」
「落ち着けさーちゃん、合コンの帰り一緒に帰って、2人で話す時間あるかもしんねーじゃん。名誉挽回するチャンスだろ。秘技俺なりの気遣い…」
「くるわけねーって!まじでいい加減にしろよ!秘技岡田全否定!」
「どうでもいいけど内緒話はあんまり目の前でするもんじゃないよね」
「…すみません」
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