[携帯モード] [URL送信]
10


セリカちゃんがガタリと音を立てて立ち上がる。ゆるやかに綺麗な螺旋を描く髪が、華やかに揺れる。まだ頭に乗ったままのおっきなリボンが無かったらまだ頭良く見えるのにな。

席順から言えば、彼女は僕の前に座る女の子の横の横の横。つまり一番遠い対角線で結ばれた位置に座っている。
ちなみに男子の席順は、セリカちゃんの前にヨシヒサ、その横に岡田そして僕という感じに落ち着いている。女子の人数が4人に対して、男子の人数が1人少ないので結果的に男子と男子の席の間は少し大きめだ。そのせいもあるのか、さっきまで並んで歩いてた2人がえらく遠く感じられた

「じゃ私からしまーす。3組のセリカでーす!好きなものは…うーんなんだろお?にゃんことか可愛いもの!あと甘いものと買い物も好きかな。そうそう私ねーお菓子作り得意なんだよ」

「おー!女の子っぽいねー」

「ふふ。」

合コン王子がタイミングよく、気の利いた相づちを入れ、セリカちゃんも満足げに微笑む。さすが百戦錬磨、相手が欲しがっている言葉が手を取るようにわかるんだろう。彼女も女の子だもんな、ちやほやされるの大好きって感じは自然と伝わってくる。



セリカちゃんに続いて、横にいる女の子も自己紹介をし始める。時折ちらちらと岡田に目線を移すあたり、なんとなく岡田を意識をしていることが窺えた。岡田は、セリカちゃんの自己紹介を聞いたときの態度の何倍もの誠意を持って話を聞いている。分かりやすい奴だ。彼女の名前を覚える気はなかったので、その子を「岡子」と命名することにした。

次に自己紹介したのは岡子の横の、栗色の髪の子だ。肩あたりでくるんと内巻きになっている髪型は流行を取り入れているつもりらしい。食べる際に鼻にかかるような高い声で「おいしーい」と言いながら、ゆらゆらと頭を揺らす姿は、「ペコちゃん」を彷彿とさせた。お腹ペコペコのペコちゃん。はは。
…しまった、また前の人に見られてしまった。にやけてた口元を引き締めると前の人は怪訝な表情を一層濃くした。

そして最後に自分を紹介したのは僕の前に座るその子だ。枝豆を剥くのに夢中になっていた僕は、その子の自己紹介を聞くのを忘れていた。顔を上げると、その子が話終えて高揚した顔つきのまま着席するとこだった。まぁ「前の人」でいいや。

確かに女子のレベルは、セリカちゃんを筆頭に高い方なんだろうなと思う。自分が魅力的だということを熟知した可愛さがあったのも確かだ。
同じ女の子に優劣とかレベルとか別に無いと僕は思うけど、ヨシヒサがしてた話や、自信に溢れた女の子の笑顔を見る度に、どうやらそんなモノサシも存在してるらしいことを理解した。男の世界にもあるんだ、水面下の競争の激しい女子の中にそれが無い筈ないもんな。

「じゃ次男子行っきまーす!」
ヨシヒサも岡田も時々冗談を交えながら、慣れた調子で自己紹介をする。ヨシヒサたちが女子の笑いを取る度に、動悸が激しくなる。尋常じゃない手汗が僕のはいてる黒のパンツの大腿部を湿らせるのがわかった

「…つーわけでこんな岡田くんをよろしくー」

拍手が起こり、自己紹介を終えた岡田が席に着くのがわかった。僕は俯いたまままだ思惑を広げていた。タイミングはいつだ?いつ立つべきなんだ。ていうか、まず何を言おう好きな食べ物?いやありがちすぎるどうしようか、どうしようか

「おい、さーちゃんの番だぜ」
不審に思った岡田が僕の肩を叩く。驚いた僕は大きな音をたてて慌ただしく立ち上がった。女子たちの視線が一気に集中する。さっきヨシヒサと岡田に向けられた視線よりも冷静で鋭いものに感じられた。

「…えっと、悟です。…好きなものは別にないけど…服…とか。よろしく」

場の空気が白けるのが分かった。まずいことになってしまった。ヨシヒサも岡田もさぞかし呆れた顔をしてると思うと、自分の順応性のなさに歯ぎしりしたくなった。
その時だった。

「ごめんね、ソイツ照れ屋でさー!やっぱみんなくらい可愛い女の子前にしたら上がっちゃって」

ヨシヒサがフォローを入れる。僕はヨシヒサの方を見る。随分情けない顔をしてたんだと思うけど、ヨシヒサは一度もこっちを見ずに続ける

「今日もコイツを女子慣れさせよってことで俺らが無理やり連れてきちゃったんだよなー、岡ちん」

「ん?ああ、そうそう。だからいたいけなこの坊やに色々手取り足取り教えてあげてくれ」

手取り足取りってなんかやだあーと女の子たちが笑う。

ヨシヒサたちのフォローのおかげで場の空気が少し和やかになったようだ。岡田がちらりと目配せする。「大丈夫?」と言ってる気がして僕は黙って頷いた。結局2人に助けられてしまった。後でヨシヒサたちに謝罪と、礼を言わなければいけない。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!