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僕らは突如湧いて出てきた人々の群れに押されるようにして前に進む。ちょうど駅の帰宅ラッシュに引っかかってしまったらしい。なんで込みやすいこんな時間帯にこんな場所で待ち会わせることにしたんだよ、と誰に向けるでもなく舌打ちするが、足音や会話の声に見事にかき消される。とにかく足を動かすことに集中しないと。人ごみが嫌いとかいってらんねーよまじで


「でさー岡ちん、今日の女子のメンツなんだけどセリカ達のグループになったわけよー」

「セリカ?まじかよ、それは聞いてねーぞ、うわ聞いてねー」

岡田を挟むようにして歩いているので、右端のヨシヒサと岡田が会話していると、左端にいる僕が余るのは必然だ。分かっていても物凄くおもしろくない状況だよなこれ。でもこれくらいでむくれてたら今日どうなるんだよ。これから更にひどい仕打ちを受けるかもしれないのに…僕は自分に喝を入れ直して足を前へと運ぶことに専念する

「や、だってさ、女子のレベル落とさずにっつったらやっぱりセリカ辺りが妥当じゃねえ?」

「俺、あいつ、嫌い」

それにしてもさっきからちょいちょいこいつらの会話に出てくる『セリカ』なる人物は誰なのだろうか。岡田がすっぱり嫌いだと断言するくらいだから相当の猛者に違いないだろうが…あれだろ化粧が濃くて服装が派手で大好物は可愛いスイーツとイケメンですって言っちゃう感じの子だろどうせ。邪魔な奴は息をするくらいの自然さで存在を黙殺する感じの、今時の、さ。そして今日、その残酷な審判にかけられる確率が限りなく高いのは何を隠そう、僕。はは、笑えない、顔がひきつってきた

「ほんっと岡ちんはセリカ嫌いだよなー、あんくらいの我が儘さならまだかわいい内じゃね?男なら受けとめねーとー」

「俺、あいつ、

「嫌いなんだよね!了解!まーあと3人他の子くるんだからさ!…お持ち帰りしちゃっても二人の合意の上なら全然オッケーだし!」

ちょっと待て。僕が来ることになるまでは、こいつら、女子4人を2人だけで相手しようとしてたのか?聖徳太子じゃあるまいし無理があるだろ…ていうかヨシヒサの馬鹿は置いといて、お前どんだけ合コン慣れしてるんだよ、岡田!岡田に謎の脅威を感じた瞬間だった。


「それは…健康な大和男児としては、熱くなるな…」


「てめーの大事なところがだろ」

「あれえ?お前いたんだ、なんか久しぶりに声聞いたなー!てっきり帰ったかと思ったぜー」

久しぶりに声を発した僕にすかさず岡田の横から奴が顔を出す。…ような気配がしたが、不毛な争いを避けるために、聞こえてないフリをする。悪いが君の挑発に乗るほど子供じゃないんでね、という僕なりの意思表示だ。
…だがそこはまだ未熟な僕、心の中で中指を百回突き立てることも忘れていない。

…わざとらしいんだよクソったれ!


「んだよシカトかよ感じわりーな」

お前が言うな。

「なあ…さーちゃん、ヨシヒサ、すまん。たぶん7時に間に合いそうにねー」

僕とヨシヒサが同時に岡田に視線を向ける。ヨシヒサは岡田の沈んだ声に反応したのか表情を曇らせ、僕はといえば、立ち止まった岡田の前髪が、電灯に照らされサイケデリックカラーにきらめくのをぼんやり眺めていた

「途中の俺の電話が痛かったよなー、ごめん」

僕は岡田から目を逸らし、向こうの通りを見ているポーズをしながら、言葉を探す。こういう時、もし岡田ならなんて言うだろう、僕が岡田の立場なら、なんて言ってほしいだろう。乾いた唇を一舐めして、発言する。自分の声がかなり頼り無さげだったのは想定内だったけど。

「…別に岡田のせいじゃないだろ、このまま急いで行って普通に謝ればいいよ」

「岡ちん、遅れて行った方が相手の印象に残ったりするんだぜ、だから逆にラッキーだって」

ヨシヒサが僕の言葉に続き、岡田に親指を立てて笑ってみせる。そんな風に普段から健全に笑っていれば、まだちょっとは性格良く映るのに。いや、相手が岡田だからそんな風に笑うのかな。

「…コイツもこう言ってるし、大丈夫だよ、だから気にすんなって岡田」

「なんかお前いいとこどりじゃん!生意気!岡ちん、俺らはなんも岡ちんに対して怒ったりとかしてねーからね!安心して!」

俺らって、なんだよ。岡田を2人でフォローしているこの状況がおかしいからだろうか、片頬が引き上がっている自分に気付く。なんだろうなー、なんか、なんかさ。

僕が言うのもなんだけど、みんなに愛されてんなー岡田。沸々とこみあげてきたくすっぐたい可笑しさをこらえながら、茶化すように、あえてヨシヒサの言葉のあげ足をとる。

「ていうか…さっき遅れた方が相手の印象に残るってお前言ってたけどさ、全員一緒に遅刻は効果なくね?ただのうっかりさんの集まりじゃん」

「ちげーし!うっかりさんはお前だけだ!」

「分かった分かったじゃあお前はがっかりさんな」

「ころす!」

いつの間にか人ごみを抜けていたらしく、三人並んで歩道を歩いていた。前後にはカップルの群れ。そしてそれに挟まれるようにして、男だけのむさ苦しい僕たちがいる。一見仲良さげにみえるんだろうが実際はどうなんだ。…まあいいか。三人ともパンツのポケットに手を突っ込んで、夜の街をジグザクに進む。飲み屋のネオンが発光して、僕らの上半身をまんべんなく照らす。なんだか変な気分だ。星も、街灯があるにも関わらずチラチラ眩しい。




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あきゅろす。
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