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むなしくも僕の願いは届かないようで、岡田の姿はオブジェの向こう側から動かない。険悪なオーラを発している張本人は、依然としてそっぽを向いた状態を崩さない。その体勢絶対首きついくせに、この意地っ張り。ここは相手の機嫌を損ねたらしい僕が状況を変えるしかない。僕は立ち上がり、手のひらと尻についた砂を軽くはたいた。


「ていうかさ」

「…なんだよこんど俺の名前酸っぱくしたらツバかけんぞ」

もしかしたらシカトされるかなとも思っていたので、返答が速効で返ってきたことに軽く面食らう。何気にお前もこっちの存在を気にしてたのか。

「お前意外にセンスあるんだな」

奴の私服をあらためて観察する。コイツのことだから、白いシャツをおっぴろげ、足下の裾の広がったパンツを履き、魔女のような先っぽの鋭利な靴を履いてる感じだと思っていた。でも実際は…なんだろう、ほどよく派手な感じだ。遊び慣れてる感がぷんぷんするが、似合ってるもんな実際。

「意外に?…まあな。俺オシャレだもん」

生意気にショートブーツなんか履きやがって。
心の中でなら暴言も許されるだろう、きっと

「うん本当にそうだと思う!いやーセンスいいな!」

「喧嘩売ってんのか?」

…相手が相手だとついイヤミぽくなってしまうな。
だがさっきコイツに言ったことは割と正直な感想だったりするんだけどな

「…や、でもほんとセンスは無駄にあると、思う」

「…無駄にはいらねえよ」

「照れんなよ」

「…わかった?わかった?ちょっと照れた!やっぱ相手が誰にしろほめられたら嬉しいもんよ」

奴は顔を覆い、足をバタバタさせ始めた。どうやら体全体で喜びと照れを表現しているみたいだが…ちょっとなんなんだよ岡田、コイツ本当に大丈夫なのか?段々話すのが怖くなってきたじゃないか

「た、単純だな」

「あーん?自分に自信があってなにがわるいんだよ」

「…うらやましーよ。その性格。ほんとに」

フンと勢いよく鼻を鳴らすあいつから僕は目を逸らし、ため息を吐いた。やっぱり容姿の優劣って自信の有無に比例すると思うんだよ。生まれたときから不平等だよなーほんと

「あーおまえ自信なさげだもんなー」

「…ほっとけ」

「まあまあ!人間顔じゃないって!」

「本音は?」

「ほぼ顔だね」

「正直者って無邪気に人を傷つけるから困るよね」

「いやまてよ落ち着け振り上げた右手をゆっくり戻そうや!そうゆっくりだ」

「帰ろうかな、もう俺なんか悲しくてたまんねー」

「まあまあ、ほぼって言ったろ?性格も大事なんだよやっぱりな!だから大丈夫だ」

コイツに慰められるとは、いよいよ俺も情緒不安定であることを認めざるを得なくなってきた。ていうかお前に言われたら更に虚しく響くのは気のせいか?僕の勘違いなのか?

「…ほんとかよ」

「なんだよその幽霊みてーな声は。あっ、でもなーお前性格もねちっこそうだなーどうするんだよ」

「帰る」

「待ってって俺が岡ちんに怒られるーー!」

回れ右して足を踏み出すが、軽くつんのめってしまった。奴が必死の形相で僕のニットの端をしっかり握って離さないからだ。なんてホラーチックなんだろうか、僕は情けないが足がすくんでしまった。

「いや帰らないからさ、離せよ、伸びるから…」

「じゃあ『離さない張らせない走らせない』って早口で5回言えたら離してやるよ」

「はあ?馬鹿か?…はなさないはれさな…はなさないはれさないはせられ…あれ。言えねー…。お前何ニヤニヤしてんだよ!むかつくんだよ!」

断固としてニットを離そうとしない奴の髪の毛を引っ張る。ああ訳の分からぬ早口言葉に引っかかってしまった。その歳で早口言葉とか言って恥ずかしくないのかよこいつ。…そしてなんで僕もそれに乗ったんだよ、情けない

二人の徐々につかみ合いが激しくなってきたときだった。いつの間に戻ってきたのか、岡田が僕らから3メートルぐらい離れた場所で棒立ちになっていた。くるのが遅い!!


「お、岡田ー!」

「岡ちん!おせーよ!!」

岡田が僕らのかけ声で我に返ったのか、ゆっくりと近づいてくる。電話の内容が関係しているのだろうか、心なしかほんの少し表情が硬い

「や、二人が仲良くなっててちよっとびっくりした」

「岡田…本気で言ってるんだったら俺は帰る」

「ははは帰んな帰んな!じゃ待たせてごめんな二人とも。行きますかー」

「うーす!」

「…うーす」

「やる気ねーなー」

岡田を挟むようにして、僕らは目的地である居酒屋へ向かうのだった。ていうか7時まであと10分もないけど大丈夫なのだろうか。…まあ僕が気にすることじゃないか、焦らずいこう、焦らず。







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