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「…で、なによ、なんでソイツがいるわけよ。岡ちん」


「みんな一緒が楽しいね!」

「なに?何の標語?」

私服姿の煙突野郎が、僕と岡田を交互に見る。
僕だって好きで来たわけじゃないことを主張したいのは山々だが、今の僕には奴を相手するほどの元気は持ち合わせていないのだ

「まあよーヨシヒサそう言うなよ、俺が無理矢理さーちゃん誘ったんだしさ。どうせ人数足りないんだし」

さりげなく僕をフォローする岡田。なんでそんなに良い奴なんだよお前

「ま…岡ちんがいいなら別に?参加させてやってもいいですけどー。ただし俺のことは合コン中もさん付けしろよ。あくまで俺とお前はタ!ニ!ン!なんだからな」

「…わかったよ。呼べば良いんだろ。ヨシヒ酸」

「次は科学の用語?まじ何?コイツ殴っていい岡ちん」

「はははーヨシヒサ荒れてんなー」

駅前の変なオブジェの前で集合したはいいが、さっきから道行く人の視線を感じる。知らない内に肩に力の入っている自分に気付く。人の好奇の視線には一体いつになったら慣れるのだろうか。たぶん大半は岡田とギャーギャーとやかましい男の二人に注がれているものだと思うが。…あとは「何あのちっさいの」て感じの、僕に対するものだろう。なんかもうやだ帰りたい。
また気分が落ち込んできた僕は、人の視線から避けるように俯き加減になる。

「あれ、さーちゃん気分悪いん?」

「げぇ、岡ちんなんでコイツ連れてきたんだよ〜ばっちい」

小学生男子並みにデリカシーのない男が傍で笑う中、岡田が僕の顔を覗き込む。黄色に染めた痛んだ髪が僕の鼻先をくすぐった。人々の視線にたじろぐ情けない顔を見られたくなくて、僕は顔を反らす。

「や、大丈夫だよほんと。ごめん」

「…そか」
す、と顔を元の位置に戻す岡田。

「…まあ大丈夫だって、カテキョも大人なんだからさー冗談として受け取ってくれんじゃねーの」

岡田は僕が、先日ゆーくんに誤って送ったメールのことを思い出して落ち込んでいると思ったようだ。

…あの後、待てど暮らせどメールに対する返事は来ず、胸に爆弾を抱えたまま今に至っている。

そこで岡田が、落ち込む僕を見かねて、気分転換になるからと今日の合コンに半ば強引に連れてきたのだ。…いや連れてきてくれたのだ。いい加減、人の優しさを「さも不本意だ」という風に言う癖、治そう。

「カテキョからメールまだきて…や、来たんだっけ。すまんすまん」
「ん…来たっちゃあ来たよ」

そう、確かにメールはきた。

『突然すみません。ゼミの関係で自分が遅くなるので、金曜日の授業は月曜に持ち越します。課題はいつも通り2教科分進めておいてください 笠原雄太』

超絶的に業務的で丁寧な、授業の延期のみを伝えるメールが。絵文字を使わなそうな印象はなんとなくあったけど、いざそんなメールが来てみるとショックを受けている自分がいた。しかもあんなメールを送った後だ。
意識的に僕と距離を置くためのものとしか考えられない。見える…見えるぞ…次の授業からは問答無用で淡々と授業をすすめていくゆーくんと、縮こまる僕の姿が。

笑顔で人を拒絶しそうだもんあの人。ああ…。

「なー岡ちん何の話?俺全くついていけないんだけどー」
「んーまあ気にするな」
「気になるー!気になるー!教えろー!」

いかん。今日ばかりは本当に、この無神経な野郎の声に耐えられない

「うっせーな黙れよ。お前に関係ねえだろつっかかってくんなうぜえ」

すらすらとでてきた言葉に場の空気が凍り付くのがわかった。時既に遅しだ。来るべきじゃなかった。なんで僕はこんなに自分本位なのだろう

「あ?」

さっきまでちゃらけていた奴は、声音に威圧感を含ませこちらを見下ろす。僕に八つ当たりされたも同然なんだ、怒って当然だろう。

「はー…、さーちゃんもヨシヒサも落ち着けって」

さすがの岡田も有無を言わせない態度で僕らの間に割り込む。「俺やっぱり帰るわ」と口を開こうとした、その時だった。




電話の呼び出し音が、鳴った。





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あきゅろす。
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