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「いやあそれがさ…まだ俺カテキョに連絡先教えてないんだよ」

「そりゃお前カテキョ困るんじゃねーの。連絡とれないじゃん」
「まぁ実家の電話は教えてあるし、連絡は取れるんだけど」
「…んだよーじゃあいいじゃん別に悩まなくても、さーちゃん何がいいたいのか伝わりにくいんだよーあー面倒くさい。腹減った。…って言いそうになってしまった」
「うん聞こえた」

僕の補足に白けた顔をする岡田。優柔不断な僕を笑いたければ笑うが良い。でもさ、一応連絡は取れるっていってもやっぱり携帯の方が断然連絡の即効性があるしさ。こんなに悩むならゆーくんのアドレスを赤外線で受信した後、僕のアドレスも送信すればよかった。…早々と携帯をしまったゆーくんのおかげでまんまとタイミングを掴み損ねてしまった


「それに…最初が肝心っていうじゃないかよ」

「あーハートの絵文字使っていいのかなーとか思うよなー」

「…対女子メールじゃないからな。念の為いっとくけど」

そうだよ最初のメールが今後のゆーくんとさーちゃんの関係を左右すると言っても過言じゃないんだ。例えば敬語バリバリの『慇懃メール』を送ろうものなら、生徒と先生というゆるぎない関係がガチガチに固まってしまう。…気がする。反面、多少くだけた感じのメール『岡田メール』を送るとする。もし失敗なら「馴れ馴れしい生徒」というレッテルを張られるが、成功したらより親しい関係を築ける。気がする。

そんな風に思ったら、後者の方が魅力的に感じるのは当たり前な訳で。でも現実的に考えると、前者の、人と一線置くという作業の方が僕には向いてるんだよな。どうも後者は、人懐っこい人間の模倣にしかならない予感がする。今までの経験上、媚びを売ってるぽくなるもんな、僕がやると。


思えばゆーくんも馴れ馴れしいの嫌いっぽいし。呼び方にあんなにこだわる人だもんな、礼儀とかにも絶対厳しいタイプじゃん。なんだよ結局は慇懃メールにならざるを得ないのかよ…


尻窄みなまとめに落胆を隠せない僕。いざ新規メール作成の画面を立ち上げてみても、一向に指は動いてくれない。まっさらなメール打ち込み画面が無言の圧力をかけてくるようだ

「岡田…なんて書いたらいいんだろう。より丁寧によりナチュラルに、より斬新に…」

「盛り沢山だな」

岡田も腕を組み、口を曲げながら考え込んでくれている。持つべきものは友だな。ジンときてしまいそうになるじゃないか。

「駅前のラーメン屋この時間帯は多いしな、ここはベタにうどんいやまてよ麺類でいいのか…」

どうやら別のことで頭がいっぱいらしいじゃないか。

「いいよ…先に…帰っても」
「や、待ってるよ」
「いいって気を使わなくても…」
「今日金持ってないから、さーちゃんにこの前おごったぶん返してもらわないと食べれないんだよ」

シビアな理由だった。

「…ていうかさー考えすぎじゃねーの。もうこれが僕のアドレスですよろしく頼むとかでいいじゃん。超好青年」
貸してみなと岡田が僕の携帯を取り上げる。ぱちぱちと無言でメールの文字を打つ岡田の顔が心なしか怖くみえるのは気のせいだろうか

「だからさー、さーちゃんはとりあえずカテキョともっと仲良くなりたいんだろ?一緒になんかしたりしたいんだろ?だったら素直にそう書けば良いじゃねーかよ」

なんだその言い方、まるで僕がゆーくんに好かれたくてたまらないみたいな言い方。少しカチンときて反論しようとしたら、投げるようにして携帯を返された。
…なんなんだまったく。苛立ちを抑えながら画面に目をやる。奴の態度は乱暴だったが、メールの画面には行儀よく文字が並んでいた。

そう、たった十文字の簡潔な本文だ。


「合コンに行きませんか」


たった、十文字。

2人して体中を震わせながら笑う。これはないわ。岡田がまた無言で携帯の画面を僕の眼前に突き出してくる。一緒になにかやりましょうって言ったってこれはない。ゆーくんに送ろうもんなら僕の死刑が決まったも同然だ。ああ腹が痛い。なんでこんなしょうもないことに笑っているのだ。笑いながらふと自分の引き笑いに気づく。我ながらなんて気持ち悪い笑い方だ、びっくりだ。

「おい…もっと…真面目に…かんがえ、ようぜ」

ぜいぜいと肩で息をしながら嗜めようとしても、途切れ途切れになる台詞はさっぱり岡田を戒める効力を持たない。すると岡田は腹を抱えながら急に真面目な顔を作って
「そうだよなちょっと俺も…落ち着くわ。正しい日本語と礼儀を忘れてたわ。さーちゃんもっかいチャンスくれよ」

正直嫌な予感しかしなかったわけだが、僕は素直に携帯を差し出した。難しい顔をして携帯を覗き込むその姿は友のために自分共々悩んでいる姿に見えなくもない。

「できたぜ!完璧だこれはもう送るしかない。うはー」

こっちを見てニマーと微笑む岡田。こいつ本気で送信ボタンを押しそうな勢いだやばい。僕は慌てて携帯を岡田の手から奪い取り、画面を見つめた。

「僕らと参加しませんか?合同コンパに」

なんだこれ本気で馬鹿だ冷や汗レベルだ。しかも無駄に倒置法だし。僕らの、ぎゃはははという品性のかけらもない笑い声が届いたのか、廊下を歩いていた女子たちが不審げな顔でこっちを見ながら通り過ぎる。

「さーちゃんダメだくるしい腹がよじれて一回転する」

「か、開脚前転でもしてろばーか」

…さて、冷静になろう悟。いい加減真面目に考えないと日が暮れてしまうぜ。まだ床で悶えている岡田は放っておいてさっさとメールを考えて送ってしまおう。

あれ?

僕はあることに気づいて固まる。いや待て、さっきまでちゃんと…え!?嘘だろ

「どうしたさーちゃん真っ青だぜ。まさかさっきのメール送ったとか?おっ約束ー!なわけないかーどしたどした」

岡田の言葉にはっとして、送信ボックスを急いで開く。レスポンスの時間はたった1秒くらいなのにひどく長く感じる。僕はあらゆるものに祈りながら、僕は震える手で一番上にある送信メールをそろりと開いた。


「なーどうしたんだよー岡田にも教えてくれよー…あ、さーちゃん?」

僕は音もなく床に倒れ込んだ。岡田が取り乱しながら己の胸を抑え、大声で「なんじゃこりゃああ」と叫ぶ。お前じゃないだろ…しかも古い…

ああ…終わった、終わったよ


送信メールの一番上にはあの倒置法メールが、送信済みのアイコンを自慢げに光らせていた。


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