1 自分が中学生だった時、クラスで目立ってた奴が言ってた。 『俺携帯のアドレスに登録してる件数400しかねーんだ』って。 曖昧に笑って流したけど、『馬鹿やろう僕なんか登録件数20も満たねえよ』って言ってやりたかったのを覚えている。 その時は、何故わざわざアドレスの登録件数の話なんかするのか只々疑問だったけど、うっすら自慢されたことは分かった。 高校生になった今、携帯アドレスの登録件数はあの時よりも増えた。 例えば、なんだかんだ一緒にいる岡田、たった一人で活動してる生物部の忠岡くん、連絡網で僕がまわさなきゃいけないクラスの女子に、女子に…。 …………。 「…さーちゃん、携帯は部屋を明るくして3メートル離れて見てね」 両手で握っていた携帯が後ろかにゅっと出てきた手に抜き取られる。 「岡田くん、もう文字かどうかも認識できないし、この距離でどう操作すればいいのかな」 「だってよう、さーちゃんリアルに携帯の画面から拳一個分しか距離とらずに凝視してたからさ」 あっさりと携帯は僕の手に戻ってきた。つるっとした携帯の手触りがすぐに自分の手に馴染むがわかる。 「…岡田さ、登録件数何件?」 「はぁ?なんのよなんなのよー」 「携帯のアドレス帳のだよ」 えーと言いながら岡田はポケットを探って携帯を取り出し、スライド式の携帯を シャキ、と音をたてて開くと素早い動きでボタンを叩いていく。放課後の教室には俺達以外誰も残っていない。開校記念日で早く学校が終わったので、それぞれ遊びに部活にと励んでいるのだろう 「…んと190くらい。それが何よ」 「俺20件なかったんだ」 岡田が真顔でこっちを見てから、しばらくしてブッと吹き出した。 「アッハハーうそだろさーちゃん冗談きついぜ〜」 「なかったんだ」 「…いやいやまさか〜」 「なかったんだ」 「でもそ… 「なかったんだ」 「わかった、わかったよ、ごめん。そんな全部受け入れたような顔で言うなよな…」 笑っていいのか励ましたらいいのかわかんねーやと岡田が欠伸をしながら言う。実のところ僕はそんなに落ち込みも妬みもしてなかった。前の僕なら分からないけど。 「でも『なかった』ってことはさ、今は増えたんだなー」 「…まぁな」 2人でにこやかに笑い合う。若干岡田の顔に安堵の色が浮かんでいるのがわかった。しかしそれがみるみる内に好奇心丸出しのニヤつきに変わっていく。気味が悪い。 「はっはぁーん…何よ何よ、さてはさーちゃんさっきの携帯凝視事件のとき、携帯のアドレス帳見てたんだろ」 勝手に事件にするなと思ったけど、何となくそこは素直に頷いた。てゆーか岡田は、携帯を取り上げたときに画面まで見たんじゃないのか? 「まぁなー数なんか関係ねーと思っててもアドレス帳に沢山名前が増えたら、嫌な気分じゃないよなー」 「いや別に…高校に入って増えたのは岡田と、生物部の忠岡くんと、連絡網をまわさなきゃいけない女子と…」 そうだ岡田とアドレスを交換したのは高校生になってからだ。何故ならば僕は中学生のとき持っていなかったからな。そういえば携帯を買ったときは嬉しくて、よく岡田にホラー系の画像を添付したメールを送りつけたものだ。懐かしいな。 僕は、生物部なんかあったっかよーと首を捻る岡田に、聞こえるか聞こえないかくらいの声で続ける。 [次へ#] |