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さーちゃんの第一印象は、決して良くはなかった。




小学校の制服がかっちりとしたブレザーだったのに、中学の制服は学ランだった。少しだけがっかりした。ランクが下がったみたいになんとなく感じたからだ。女子ウケはきっとわるくないだろうから別にいいんだけど。
俺は3月で小学校を卒業した。居ても立ってもいられなくなって、髪を金色に染めた。今日の入学式もそのまんまで出席した。
門の前に立ってた先生に思いっきり顔をしかめられて「式典が終ったら職員室に来なさい」と言われた。先輩らしき人たちにめっちゃ睨まれた。まったく生き辛い世の中だぜ。
新品のぱりっとしすぎた学ランの首元をゆるめながら、一息つく。
ああつまんねーな。話の冒頭に「えー」と必ず発音する、今スピーチ中のお偉いさんも、ああたりーな家帰りてーなって思ってるんだろうな。聞いてる方もたりーけど話す方も相当たりーんだろうな。入学式の式典も、もう終盤っぽいし頑張れおっさん。ていうかきょうは欠伸が死ぬほど出るな、なぜだおっさん。
呼びかけても、おっさんのスピーチはとまらない。当たり前かー

体育館の中心に所狭しと並べられたパイプ椅子、そこに座るまだあどけない表情の俺たち新入生。左端の席から見回すと、新入生の緊張した顔がよく見えた。こんなかにおもしれーやついるのかなー

「…ちょっと」

「うん?」

きょろきょろする俺が気になったのか、隣のさえない黒髪男子が仏頂面で話しかけてきた。

「気になるからやめてくんない」
「あ、わりわりっ」

言葉の終わりに岡田必殺キラースマイルをお見舞いしたけど、ニコリともしない。話してるときもずっと前向いてたし。なんだ、こいつ。態度わりーな。
そこでめげない俺、また小声で話しかける。

「なぁなぁ!」
「………」
「あのさあのさ」
「聞いてる!?」
「聞こえてるよ聞きたくないけど」
「なんだよ、返事しろよお!」

笑いながら少しだけ右肘で小突くと相手がびくりと体を硬直させたのがわかった。

「…うるさいんだよ、先生におこられるだろ」
「わりわり、じゃあ聞こえてるなら聞こえてるでなんか合図しろ!おっけー?」

俺の言葉に、ものすごく面倒くさそうな顔でスッと親指を立たせる黒髪くん。グットのポーズだよな。帰国子女なのか?意外にノリノリなのか?相づちくらいでいいのに、へんなやつだ。でもまあこうなったら式典が終るまで暇つぶしに付き合ってもらおうっと。

「こーゆー式典とかってたりーよな!」

親指をたてる黒髪君。同意ってことなのか、それは。

「はやくかえりてーよな」

またも親指を立てる黒髪君。うーん、こいつ意地でも喋らん気だな。これじゃ一方的すぎる。少し考えてみよう。…ああそうか、はいとかいいえで答えられる質問じゃないの言えば良いのか。

「えっと、今日何時に起きた?俺8時!うんギリギリ!」

相手は少し考えた後、手のひらをスッとあげた。んん??それは…


「…5時に起きたん?」

親指を立てる黒髪君。

「きんちょーしてたん?」

親指を立てる黒髪君。ああそうなのね、じゃないよ、なんだこいつ。らちがあかねーぞまったく。

「なんかチュー学ってすげーやつばっかってイメージあったけどそうでもねーよな」

じっと俺の顔を見つめる黒髪くん。

「すげーやつって例えばどんな」
初めてちゃんと俺の言葉に反応した。ちょっと嬉しくなってる俺。我ながらかわいいやつだ。思いもよらぬ反応に、嬉々として話を続ける。

「んあ?…そー言われるとな…。だからさ!『こいつ、すげえ』ってなっちゃうやつだよ。どーせならそーゆー面白いやつと付き合いたいじゃんかー」

つまらなそうに話を聴いてるやつだ。もうすこし隠そうとすればいいのに。

「なんかその言い方なんとなく人を見下してるよな。あんま直接人に言わないがいいと思うよ」

わーお。

「えっ、怒ってんの?」
「………」

立てた親指をくいっと逆さまにする奴。これは、「いいえ」なのか、「地獄に堕ちやがれマザーファッカー」なのかどっちだ、どっちなんだ?わかんねー!
喋ろうとしないし、らちがあかん。よーしこうなったら

「ガム食う?」

餌付け作戦だ。

「…ちょうだい」

引っかかったーーーー
今までにない反応の早さで引っかかったーーーー!

よくわからないのかわかりやすいのか、よーわからんやつだ。
ポケットに入れてたガムを一つ、奴に放る。銀色の包み紙を開いてすぐさま食べ始める黒髪君。

「…うまい?」
「…うん腹減ってたからな」

なんなんだこいつ。

「すっげーうぜーやつと思ってたけど、いいやつなんだな!お前名前は?…岡田だろ、俺掲示板で確認してきたもん。岡田、俺悟よろしく」

「あ、うん」

意外によく喋るなこいつ。すんげー笑顔だし。最初の警戒心はどこにいったんだよ、まあいいけど。なんかおもしろそーなやつだし。俺も楽しそうな黒髪く…悟くんを見てたら楽しくなってきて、ポケットからガムを取り出す。

あ。

「なあなあ、悟くん」
「なに?」
「さっきあげたガム、賞味期限切れてたみたい」

彼は突き立てた親指を逆さまにした。
どうやらこのポーズの意味はいいえではなかったようだ。



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