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僕があと数センチ背が高かったら、誰もが振り向くイケメンだったら、飛び抜けた才能があったら、お金の心配なんかしなくていい程の裕福な家庭だったら、…いつも自分の背中を押してくれる誰かがついていてくれたら。今とは違う『今』があったのだろうか。

…ほらな。行動も起こさないくせに、こんなにも欲張りで他力本願だから、いつまでたっても僕のまんまなんだ。


「でも今の高校に行ったことは後悔してないんです。大事な友達も増えたし、価値観も広がって…あれ、僕なに言ってんだろ、えっと」

軽いパニック状態だ。話したいことが溢れてきて、喉の奥でつっかえている。

「いいよ、大丈夫だからそのまま話して」

「えっと…あれ、なんだっけだから…」
「ゆっくりでいいよ、落ち着いて話しな?」

心地良い声がつっかえてたものを溶かしていく。なんでこんなに優しいんだ。僕がゆーくんなら、いくら商売相手でも子供の御託なんか聞きたくない。彼だって本当は間違いなくさっさと勉強に取りかかりたい筈なのに。

「…で、だ、だからこそ時々、もしあの自分が行きたかった高校に言ってたら、どんな生活してるんだろとか考えちゃって」

電車でその高校の制服を着た人を見る度に「就職に困ればいい」とか「次の駅でこけろ」とか念じてた。最低だ。その高校を選んだその人が、自ら勝ち取った制服なのに。

最終的に今現在の僕の『今』を選んだのは他でもない自分なのに。

「大学だって最初は、南江でいいや〜って感じでどうでもよかったんです、本当に。今の時代どこ行っても就職は厳しいらしいし。けど…、こんなこと言ったら頭おかしい人みたいだけど、中学生のときの自分がしつこく言うんですよ」

それでいいのか
今度こそ後悔しないのか、って

「で、あんまりしつこいからつい…血迷っちゃって。進路調査の紙も肝心な第一希望を空欄のまま提出して、担任に心配かけて」

岡田に言ったように今は未提出者って形になってはいるが、実際は一度提出したのだ。でも第一志望の空欄を早く埋めろと言われて突っ返された。…そりゃそうだ。ずっと一年生から南江を第一志望に掲げてて、オープンキャンパスや学園祭も数える程行ってたのだから。担任は、勿体ぶらずに『南江』と書けよと思ったに違いない。


「支配からの卒業 とかいって、担任に反抗したいわけじゃないんです。親を困らせたいわけじゃないんです。けど、考えても考えても答えが出なくて」

「…勉強も手につかないと」
「…それは元々ですけど」

ゆーくんめ久々に言葉を発したと思ったらそれか。さっきまでシリアスな雰囲気だったのに当の本人吹き出したし。しかしながら、今の切り返しは自虐的だった

「もう…いいですよ別に」

へそを曲げ始める僕をみて、更にゆーくんは笑う。

「あは、怒んないでよ。んと、俺は聞いてて答えはちゃんと出てる気したけどな」

どきりとする。もしゆーくんの考えが僕と一致したら。でももし僕の考えとは真逆だったら。僕はどうしたらいいのだろう

「ゆーくんは、どっちだと思いますか…?」

「うん、南江にしときな。


…って俺が言ったらそうする?違うよね。こればっかしは…さーちゃんが決めることだから余計な口挟めないよ」

「え、今さーちゃんて呼んだ」
「…気のせいです」

ゆーくんがそっぽを向く。…かわいい。てか初めてあだ名を呼ばれたことの嬉しさの方で頭が一杯になる。所詮僕みたいな考えの浅い人間は、悩みモードの持続性がないんだなきっと

「まぁ最低浪人もできるし。…今のはジョークね。浪人はだめ。でもまだ時間あるから」

とことん悩みなさい若者よ、とゆーくんは僕の頭に手を置いた。


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