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「…やっぱり最後は金なんじゃんか」
「そだね」

まあ確かに「お金は大事だよ」ってゆーくん言ったけどさ…。あっさり認められるのも淋しいもんだ

「それに折角国際人になっても、30すぎまで働くだけ働いて、それなりにお金稼いだら、また日本に戻ってくるつもりだし」

「ははん…分かりましたよ。そのお金使って起業するんですね。ホットドック専門のチェーン店とかを」

「なにそのしたり顔。しかもホットドックは君の役目だし。違うよ、単に日本が好きだから帰ってくんの」

僕はいつの間にかホットドック界の発展を担う役目を背負わされていたようだ

「意外と愛国心強いんですねゆーくん」

「うわ大層な響きだね。でもーしょっちゅう日本人に生まれて良かったなって思うよ。まず一つに、日本語がいいよね、日本語」

「言葉の細かいニュアンスとかがあるからですか?」

「お、いーとこ突くじゃないでか。そーそーだから会話してて『うわ日本語面白いわ』とか思う時ない?」

僕は会話中に、自分達の使う日本語を意識したことはないからよく分からない。
というか「うわ日本語面白いわ」とか会話中に思うゆーくんが、単に特殊なだけじゃないのだろうか…

「二つめはね、食べ物。これだよねー!昔から和食が好きなんだ、俺。寿司とかは特に…あ、もし今度寿司屋に行ったら『のどぐろ』注文しな?運が良かったらあるかもしんないよ、あれはねー食べときな!」

「のど…ぼとけ…」

「わざとでしょ?のどぐろってね、白身魚だから、脂乗ってる割にはまぐろより淡白で旨いんだ。まぐろのトロよりも俺は好きー」

そんな魚聞いたこともない。けどゆーくんの言うお寿司屋が、捻り鉢巻きした大将が直接ネタを握ってくれるような、高級な店だってことはわかった。回転寿司でテンション上がってた今までの自分が不憫だ。

しかしながら…
話題はどうあれ、ゆーくんがこんなに興奮しながら話してるとこ初めて見た。

僕は面食らったけど、どういうわけかそれがすごく嬉しくて、もっとゆーくんのことが知りたいと思った。こんな彼を引き出したのが魚の話だってのが、腑に落ちない気もするが

「…では3つめは!?」

「んーなんかもう面倒くさくなってきたからいいや。あはは、すごい話逸れちゃったね。で、なんの話だっけ」

さっきまで熱く語っていた癖に冷静になるのが早すぎる。ノリノリで三つめを聞き出そうとした僕が恥ずかしい。


「ゆーくんが海外に行く目的、だったと思います」

「あ、そうだっけ。ごめんね。ふふ、魚の話しちゃったよ」

ちっとも悪いとは思ってなさそうな「ごめん」を、ゆーくんは口にする。

「……。では、その地道に稼いだお金は、起業に充てるでもないなら何のために?」

「余生をのんびり暮らすためのお金だね。好きな洋服着て美味しいもん食べて。」

…決して怠惰ではない。自分で働いて稼いだお金の使い道だから、なんの文句も付けられない。でも敢えて言うなら、…思考が怠惰だ。まぁゆーくんも僕にだけは言われたくないだろう

「…そして最期は高級老人ホームで暮らすと」

「そこまでは言ってないけど。嫌じゃん、年とって貯金も無くて国の社会保障あてにする生活なんか。わーやっぱりお金は大事だなー」

「…年取った時に楽したいがために働くってことですよね?」

「その言い方なんとかなんないの? ね、全く尊敬とかする話じゃないっしょ?」


ゆーくんは背伸びして、猫みたいな欠伸をする。正直言えば、期待が裏切られたわけだが、僕はむしろがっかりするどころか益々ゆーくんに興味が湧いた。偽善よりも余程ゆーくんの毒のある正直さの方がましだ。



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