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岡田のかけてるダテ眼鏡を指でピンと弾く。その拍子に露わになった眼鏡の縁には、「じーゆーしーしーあい」というロゴが彫られてあった。…ん?んん?
…僕はさっと手を引っ込める。
岡田は不思議そうな顔をして、机にうつ伏せた
「あーもーうぜえよなー先のことすぎて、まー実際そう遠くはない将来だけどさー何のビジョンも浮かんでこなくね?」
「俺は浮かぶよ、岡田が女子生徒を口説いて問題なってPTA裁判にかけられる姿が」
「さーちゃんて冗談引きずるよな」
「冗談だったの」
「当たり前じゃん」
「あ、そうなの」
「で、さーちゃんは何で進路迷ってんの。」
僕がまだ頭の中で岡田の教師像に思いを馳せていると、岡田からストレートな質問が飛んできた。ちぇ、上手く話を逸らせたと思ったのに。ほんとこいつは変なとこ鋭い。
親友といえど他人に、悩みの核心に触れて欲しくなくて、わざと抽象的な言い回しをすることにした。
「まぁ迷ってるていうかさ、将来の職業選択で、やりがいをとるか、年収…実質をとるか、どうしよっかなーみたいな」
「なるほど」
そりゃ誰でも、好きなことしてってお金稼ぎたいって思うのが普通だろう。実際、それで飯が食えるかは別にして。
「わかるよ。俺も金稼ぐためっつってもさ、親父みたいにはなりたくねーもん」
「岡田の父ちゃん普通のサラリーマン?」
「まあな。毎日あくせく働いてるよ。息子は反面教師でこんなんだけど」
岡田は両頬に人差し指をたてて、ユニークな顔をしたあと、真顔に戻った。
僕らの考えは、甘いのだろうか?
****
ゆーくんに週末の課題を採点してもらってる時に、僕は今日岡田とした話を思い出した。ゆーくんからみたら僕たちの、中学生日記みたいな悩みはどう見えるのだろうか
「…ゆーくんは家庭教師の仕事好きっすか嫌いですか」
「またいきなりだねー、まぁ嫌いならやってないよ」
「じゃあ好きなんですか」
「…どうしても好きって言わせたいんだね」
僕がこんな風に質問しても、手際よく採点するスピードは安定してる。ゆーくんは脳みそが2つあるのだろうか。とにかく器用だ。
「まーこのバイトを続けてるのは、勿論やりがいがあるってのもあるよ。でも、きたない話になっちゃうけど効率よく稼げるからってのもある」
「やっぱり金ですか…」
僕は少しショックだった。ゆーくんみたいな知識人でも、やっぱり最後には実質的なのをとるのか。いや知識人だからなのか
「なーんか君の言い方は、お金を貰うことに一生懸命になるのを、咎めるように聞こえるんだよねー…」
「そういうつもりじゃないけど…でもお金より、精神的なのが大事じゃないんですか」
学校の先生達だって口をすっぱくして言うじゃないか。個性を伸ばせ、自分に合った仕事に就け、やりがいを感じろっ、そう言うじゃないですか
「でも幸せだとかやりがいだとか使命感を感じるには、まず生きてないといけないじゃん。で、生きるにはお金がいるよね。最低限の衣食住と嗜好品と」
「…屁理屈」
「じゃないよ。ほんとのこと。…てか君も実際お金は大切だなって思ってるでしょ?今は親に守られてるけど、もし将来家族を持ったとして、その家族にひもじい思いさせたくないよね。じゃあお金稼ぐためにとにかく働かなきゃだ。やりがいとか求める前に」
ゆーくんは淡々と、理路整然に述べる。「子供ぶるなよ」って言われてる気がした。何も言えない。その通りだからだ。やっと顔を上げたゆーくんは、僕の顔をみて目を見開く
「わ!え…なに、そんな思いつめてんの?ごめんごめん、きつかったかな」
意外にでかい手で、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜられた。そんなに絶望的な顔してたのだろうか
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