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そんな、ある意味衝撃を受けた出会いだったが、なんだかんだそれからずっとさーちゃんと友達だ。さーちゃんは元々そんな友達の数が多くなかったみたいだったから、必然的に俺と一緒にいることが多くなった。俺が他の友達と話してるときは、会話に加わることも無くぼんやりしてた。言ったことあるよ、他にも友達作ればって。でも嫌なんだってさ。他に友達作るのがめんどいんだってさ。まったくさーちゃんらしい。なんてーの、妙にへいさてきって言うのかな。そうそう、へいさてき!前さーちゃんに、この言葉言ったら不機嫌になったからもう言わない様にしよ、とは思ったんだけど。
自分のペースで話せるやつのほうがすきみたい。まっ、誰だってそうだよな。そーじゃない相手を気にするかしないか、フォローをするかしないか、その違いだもんな。たまたま俺は気にしないけどフォローはする側で、さーちゃんは気にするけどフォローはしないってだけだもんな。あれ、これであってるよな、こんがらがるな。…とにかく、さーちゃんはあんまり俺以外に友達を作ろうとはしなかった。それでよかったよ、別に俺も嫌じゃなかったし、さーちゃんといると楽だったし。



けど中3の夏…いや秋…冬だったかな、ええーい。どれでもいいか。


さーちゃんがいきなり学校こなくなった。
俺がたまに学校サボることはあっても、さーちゃんが学校を休むなんて今までなかったから俺はびっくりしたね。メールしても返事こなかったし、電話してもでなかったから、思い切って俺、さーちゃんちまで行ったもん。なぜか担任の先生は俺に教えるのをためらっていたけどなんとか教えてもらって、「さとしくん学校来ようよー!」ってさーちゃんちの家の前で叫んでたら(ちょっとドラマで観てやってみたかった)さーちゃんのお母さんが玄関から顔を出した。初めて見たさーちゃんのお母さんは、目元がさーちゃんにそっくりで、あと、ぷりぷり怒ってた。さーちゃんの友達ですって言ったら、いきなりにこやかになって(そーゆーとこも似てると思った)

いくら言っても部屋からでてこない、任せますっていって仕事に行っちゃった。だから俺、さーちゃんちに上がって、SATOSHてネームプレートがかかった部屋の前で「さとしゅ学校来ようよー!」って何度か呼んだ。そしたら、ドアの内側から不機嫌そうな声で「でてけー」って聞こえた。でも、なんかあんときは久しぶりに声聞いてほっとしたっけなー。




「…はーい、出ていきますよー」


「…何入ってきてんだよ、ばれてるぞ、出てけって言っただろ」

さーちゃんの部屋に入ると、ベットの上の布団の塊の中から声がした。

「廊下から出てけって意味かと…」

「かえれ」

俺は、さーちゃんをシカトすることにした。
部屋を見渡す。男の部屋だ。入り口側の本棚に近づいたけど、ブックカバーがどれも被さってて、エロ本でもあるまいしなんで隠すんだろうと、どーでもいいことを考えたりした。しばらくするとさーちゃんの部屋にも慣れて、ベットの上の塊にそっと近づく。小さく小さく上下に動いてる。よかった、生きてる。音がしなくなったからか、さーちゃんがいきなりひょっこり顔を出した。目が合う。

「おお、さーちゃん目が腫れてる」

布団にまた潜ってしまった。恥ずかしがりやか?
俺はベットの脇に腰掛けて、布団の塊を見下ろす。やっぱり小さく小さく動いていた。新種の生物みたいだ。やわらかいけど誰も近づけない、幻のか弱い生物。

「なあ、またゲーセンいこーぜ」

「んー…いい」

「ったくよー、腕がなまっちまうぜ」

「…おまえ麻雀のゲームばっかしてるじゃん」

「こまけーな。とにかく来いよー、つまんないじゃんさーちゃん来ないとさー」

俺の言葉にしばらくさーちゃんは黙ってから、こう言った。
「なんかあっても、おまえには関係ないし、それに、迷惑だろ」

「迷惑?」

「…他人の負の感情なんて、背負うだけ損だろ」

相変わらず変なことを気にするやつだと思った。気をつかってるのか単に俺に言いたくないだけなのか、わからないけど、なぜか俺は直感でさーちゃんは間違ってると思った。

「俺たち友達じゃん、そんなん気にしなくてよくね?」

「……」

息を吸って俺は喋りだした。

「さーちゃんが言いたくなかったらそれでもいいけど、むかつくぜー、しんどいぜーって誰かに話すだけでもいいじゃん。それがダチだろ。全部言わなくてもいいよ、理由も言いたくなかったら言わなくていいんだって。でも、どっかに気持ちのぶつけどころを持ってもいーんじゃねーかな?何も言わないのが男の美学かもしんねーけど、俺それっておかしいって前から思ってたさ。本人は内心でめちゃくちゃ動揺してんのに、なんだよ男の美学って。笑わせんなよ。ちげーだろ、ただつくろってるだけなんだよ、プライドがたけーから、弱みみせるのが恥ずかしいだけなんだよ。さーちゃん、俺笑ったりしねーよ。変に同調したりアドバイスするのはさーちゃんと一緒で苦手だけど、でもきくことぐらいできるよ。それがダチだろ。いーじゃんみせたってさ、ほら、俺あんま話聞いてないし、誰にも言わないよ。秘密は守るよ絶対に。だからさ、そんな一人で抱え込むんだったら俺になんか一言云えって。だって、ダチだろ」

一気に喋って喉がからからになってしまった。途中で自分でも言ってること分からなくなってきて、最後はダチだろで締めくくってしまった。これでよかったのか。てか俺こんな熱い男だったかなと自分でも思いながら、さーちゃんの返答を待つ。静かな部屋に、鼻をすするくぐもった音が聞こえた。

「…お前って、意外とあついところあるんだな」


俺だってびっくりだよ。喉カラッカラだよ。



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あきゅろす。
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