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「は?」


「だから、ゆーくんですね」


いや俺の名前の「雄太」を元にあだ名をつけたのは分かってる。分かってるけど…なんで、いきなり。

「ゆ、ゆーくん?や…今までの子は普通に先生とか笠原さんって呼んでたけど」

「なら余計にいいじゃないすか〜!じゃあぼ僕は悟なんで、さーちゃんて呼んでくださいね!」

さーちゃんって。18歳男子が言うことかよ…。俺はとんでもなく面倒臭い子のとこにきちゃったのかもしんない

「あー…。も、いいや。うん。じゃあ今後の予定たてよ。とりあえず出来る限りそっちの予定に合わせるので。」

「あ、はい」

彼は作っておいた予定表を食い入るように見つめ、予定の有無を書き込んでいく。雑な字だ。

「そういや君レゲエ好きなの?」

再度マリファナのポスターに目をやる。彼の趣味なんか興味のかけらもないけど、今後の話題のためにも知っといて損はないだろう。コミュニケーションには情報収拾が肝心だ。

「レゲエ?いや特に好きでもないですむしろ五月蠅く感じます」

「え…矛盾してない?じゃあ何でマリファナのマークのポスター貼ってんの」

不思議そうにこっちを見る彼のために、俺はポスターを指差した。彼の視線が合わせて動く。

「ま、まりふぁな?この葉っぱみたいなやつのことですか」

「うん。」

「あ、そうなんですか。いや前壁に穴空けちゃって、それ親にバレたら殺されるんで、塞ぐために友達から適当なやつ貰ったんです。あはは」

知らなかったのか。紛らわしい。てかシンプルな部屋の中で思いっきり浮いてんだけど

会話するのも面倒くさくなってきて、教科書に目を通しながらぼーっとしてると、また「ゆーくん」と呼ばれた。また訂正するのは細かい奴みたいで嫌だったから、あえて黙認する

「あ、終わった?」

予定表を覗き込むと、何カ所か予定があるだけで、殆どまっさらな状態だ。毎日暇なんだろう

「…先生今僕のこと暇っておもいましたね?」

一瞬否定しようか話を逸らそうか考えたが、そっちがそうなら気遣う必要性もないか

「うん。暇なんだね」

「ひどい!」

「ひどいって…自分が言わせたんだからね」

「うん」

彼は笑った。俺も少し笑う。
少し吊り目ぎみの目が細くなる笑い方は、人懐こかった






「あの、ゆーくん。聞いてます?」

過去の2人の出会いを思い返してたら、人懐こい笑顔を浮かべた彼に肩を揺さぶられた。

「…あ、ごめんレバニラがどうなったんだっけ」

「そんな話してないっす」

「知ってる。でなんだっけ?」

「や…その…」

彼は気まずそうに目を泳がせる。妻に浮気を指摘されて、なんとか隠そうとしてる夫のようだ。しばらく待ってみたが言う気配は無く、あ、とか、え、とか言うだけだ。

「別に言いたくなかったら言わなくていーよ」

「違うんです!その、あの…Tシャツは…」

Tシャツ?つい最近自分が俺にやった、あのTシャツのことだろうか。

「あーなんか恥ずかしくてここには着てこないけど、たまに着てるよ、役立ってますとも」

「…そすか」

俺の返事を聞いてすぐ、彼はノートに目を戻した。素っ気なく装っていたが、声に喜色が滲み出ていたので、照れてるだけで嬉しいのだろう。
感情表現が下手なんだか上手なんだかほんとわからない子だ。

後ろ姿の彼にばれないように、小さく笑った

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あきゅろす。
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