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駅の帰宅ラッシュを危惧してたが、なんとか地下鉄の座席に座れたので一息吐く。
今日は2件の家にお邪魔する予定で、1件目がその…例外くんの家だ。根はいい子だけどなんとなく自分のペースを崩されるんだよね

思い返してみればあの子は最初からなんか変だった




「えーっと…ここだよな。」

ちょうど2週間くらい前、俺はある家の前に佇んでいた。
大学受験を控えた子供の親に、短期の依頼を受けたのだ。見た目ごく普通の家なんだけど

「えー…、まさかの留守?」

…呼び鈴をいくら鳴らしても誰も出て来なかった。でも電気はついてるし…昼寝でもしているのだろうか。電話なら出るだろうかと思って、携帯電話を取り出した時だった。家の中から、かなり急いで玄関に向かってくる足音が聞こえた。
チェーンが慌ただしく外れされる音がして、ドアが開いた。顔を出したのは高校生くらいの男の子だった。

たぶんこの子かなーと思ってとりあえず観察する。着てるのは、高校生の必須アイテム、スウェット。あ、寝てたのかな。髪がはねている

「すみません!ちょっと俺寝てて…宅配便すか?いやーイケメンすね!お兄さん」

どこをどう見たら宅配便の人に見えるのだろうか

「いや…ご両親に聞いてない?カテキョ…家庭教師のこと」

そう告げた途端、彼の顔から血の気がなくなった。ちょっとほんとに大丈夫なのこの子

「や…ちょ、あはは、ちょちょっと待っててくださいハハハ」

音を立ててドアが閉まったかと思うと、また慌ただしい足音がして

「おいっ起きろババア!ふざけんなババア!俺カテキョとかやだっつったじゃん!なんで勝手に頼んでんの!俺これ以上勉強したら頭おかしくなんぞ!どーしてくれるんだよババッ…

最高に取り乱したあの男の子の声が途切れる。丸聞こえなんだけど…。帰るべきか迷っていると、またドアが開いた。男の子が静かに顔を出す。

「あの…どうぞ入ってください」

「あ、おじゃまします。…あとそのほっぺ大丈夫?」

彼の頬にはしっかり平手打ちの跡が残っていた。痛々しい。


「気にしないでください、部屋いきましょう…」

「うん…」


****


男の子の部屋らしく、全体的に物が少ない。壁にはマリファナが描かれたポスターが貼ってある。レゲエ好きなのだろうか

「あの、今日からやっぱり勉強するんですよね…」

余程勉強が嫌いなんだろう。不安げにこっちをみる彼が可哀想に感じて、俺は少し考える。ま、今日は早めに切り上げて、次からみっちりやるか。

「じゃあーとりあえず今日は自己紹介とか今後の予定立てるくらいにしとこっか」

「あ、はい」

思いっきり嬉しそうな顔してるこの子

「えっと…俺は笠原雄太です。今大学2年生で21だから、君の3つ上だね。でもあんま畏まんないで楽にしてくれていーから。まー、し…ぼちぼち頑張りましょ」

死ぬ気で頑張りましょて言おうとして慌てて言い換える。最初だからあんま脅しかけないがいいよね、うん


しかし俺の自己紹介に対してなんの反応も返ってこない。ほんとどーしたんだろ




「ゆーくんですね。」



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