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宅飲み会場にて


「じゃ春からはアイツと一緒に住むのな」

「へへへ…まあな」

幼なじみが今まで一貫して付き合ってきた恋人は、3つ年上で、誠実で、頭が良くて、笑顔が可愛くて、そんでもって、男。らしい

1ヶ月前に今日みたく2人で宅飲みしたとき、幼なじみが独り言のように漏らしたその言葉に、思わずビールを吹き出してしまった。まぁ正面に居た幼なじみは当然顔ビールまみれだ。それなのにアイツときたら笑いも怒りもしなかった。ひたすら下向いて凝固。

びっくりした訳よ。

なぜならコイツが所謂ホモさんだってことを知ったのは、それが最初だったからだ。

中学生高校生くらいのときにそれを言われたら、たぶん口も聞かなくなるくらい、幼なじみであり親友であるコイツのことを軽蔑しただろう。それか軽蔑とまでいかなくても万が一のことがあるから、身の安全の為に避けまくったに違いない。

けどその事実を言われたのはもうだいぶ、俺たちが思慮分別だの異文化理解だの…あれ異文化理解は意味違うか。いやだいたい合ってるだろ多分。そう、俺たちがだいぶ大人になった後だったから、告白されても「まじかよ、すげえな」くらいの驚きだった。

ネクタイを難なく結べるようになってきたことをアイツに自慢した直後だったっけ。脈絡無さ過ぎだよな。

枝豆をハムスターのようにもしゃりもしゃりいわせながら食べる幼なじみを改めてまじまじ見る。こっちの角度的に伏し目がちに見える目元は、アルコールで赤く染まっている。こっちも結構早いペースで飲酒してるからだろうか、妙に体がふわついて饒舌になってるのがわかる。


「いやーまぁ最初はびっくりしたね、幼なじみがホモとかキモ過ぎだもんなー」

「うわーばっさり言いやがった。誰だこの不審者家に入れたの」

言いながらアイツが安心しきった顔で笑ってるってことは、俺が本気で言ってる訳じゃないってことが伝わってるからだ

「てめえ実は今まで俺のことやらしい目で見てたんだろー助けてお巡りさーん」

「自意識過剰だー!安心しろーさすがに幼なじみにはねーわ!」

自分でふっておきながら、アイツの言葉に若干失望に似た苦い思いが湧き上がる。それを飲み込むように酒を口にする。喉を熱くさせながらアルコールとさっきの苦いのが下に下に吸い落ちていくのがわかった

「まぁ最高に勇気のいるカミングアウトだったよなーあれは」

「な、何言ってんだよあんなもんお前ぺろっだ!もうぺろりんこだよ、ぺろっと出たねあの話は。俺勇者!ヤッター!」

「お前あれだろちょっと虚言癖あんだろ」


ニヤニヤしてるけどよう。虚言もいいとこだよ、嘘つけお前、あのとき言ったじゃんか。なんでもっと早く言わなかったんだよって俺が言ったら、…否思い切り怒鳴ったら「怖かった、お前に嫌われるのが怖かった」て震える声で言ったじゃんか。

「全くうるせー奴だな!向こうに住みだしたらたまにしか会えなくなると思うと清々するような寂しいような

「頑張れ」

「は」

「頑張れよ、お前がいい奴なのは俺が保証してやるから」

「ちょっと待て不意打ちやめろ」

アイツは上を向いて腕で目を覆う。それを静かに観察しながら更に酒を煽る俺。


なぁ聞いてくれよ両想いってだけですげえ低い確率だと思うんだ。お互い好き合うっていう、究極にシンプルなんだけど兎に角面倒臭くて困難なことなのにさ。加えて性別が同じっていうデカ過ぎるハンデもあんのにさ。もうこれは運命に違いねえよ、頑張れ。頑張れな。幸せになれよ。これから色々大変なことも絶対あるだろうけど、お前なら大丈夫だって。

「でも、」

「…ん?」






「戻ってこいよ」


…でも最後には俺のとこ帰ってこい。今は気付いてないだろうけけど、お前に俺は必要だ。何が何でも欠かせないんだ。宇宙の法則で決まってんだよ、それ何てジャイアニズム?うるせえ黙れ関係ねえ。安っぽい運命なんか信じてたまるか



「…だー!大丈夫だって!たまにまたこっちに戻ってくっからまた飲もうぜ?な?」

たまにじゃねえ毎日こいよ阿呆が。しかも「あー不意打ちだちくしょう」とかほざきながら泣き出す始末。なんで泣くんだよって聞いたら「熱い友情感じた」だと。友情とかそんなぬるいもんじゃねえよバカ。それでも枝豆は食べる手は止まらねえのかよ。ていうかこっちが泣きたくなってきた。間違っても嬉し泣きじゃない、かといって悲しいから泣くんじゃない。自分でもよく分からない涙だ。いい年して深夜に2人で男泣きって気持ち悪すぎて笑えるぜ全く

あーあ、お互いのこと好きになるってだけで一苦労なのに、馬鹿デカい壁があっても一緒になろうと思えるってすげえ。告白したのはコイツか向こうか知らないが、報われなくてもおかしくないんだ。むしろ報われないのが普通なんだよ。本人たちにとっては普遍的すぎて忘れているかもしれないが、俺にとってはもの凄いことなんだよ。

だから今からそのことをこの馬鹿に再確認させてやろうと思う。

未だにめそめそとすすり泣く男を見ながら自分の頬を一舐めしてみる。当たり前だけどアルコールの味じゃなくて、ちゃんと塩辛かった。



脳足りんのこいつのためにも分かりやすい例え話を。




とある男の例え話。













一方通行の想いのまま、報われなかった男の話。

悲恋物語

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