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走り出す準備。(青山)

太陽の眩しさに舌を打って、ヤマさんは目を細める。
つばに手をかけて帽子を深く被り直すと、笑顔で俺を振り返った。
「やっぱ暑いな」
「夏ですから」
生温いペットボトルを煽りながら言葉を返せば、ため息まじりに「つまんねぇヤツ」と呆れ顔。
それに「すんませんね」と皮肉に眉を寄せ、その後また笑い合う。
久しぶりの軽口の応酬に鳩尾の辺りが擽ったい気分になった。

有志で練習に参加してくれた三年生たちがいる事で、緩みかけていた空気が適度に緊張する。
ピシと折り目の見えそうな雰囲気に包まれるのは、いつぶりだろうか。
この感覚は心地よくもあり、未だそうなれていない自分を不甲斐なくも感じさせた。
まだ主将の襷を引き継いで間もないのだから、仕方ないと言ってしまえば仕方ないのかもしれないけれど。
俺は少しだけ胸に湧いた悔しさを空になったペットボトルと一緒にバッグに放り込んで、ベンチから立ち上がった。

「後半はメンバー分けて、紅白戦でもする?アイスでも賭けて」
太陽の真下、濃い影の中で笑みを浮かべてヤマさんが肩越しに振り返る。
負けず嫌いの不敵な眼差しは、数日前までに見ていたものと少しも変わらない。
それがなんだか無性に嬉しく感じた。
「望むところですよ」
「言っとくけど、手抜く気はないよ」
「俺だって、負けるつもりなんかないっすよ」
もう絶対に負けない。
相手が誰であっても、そう誓ったんだ、あの場所で。
強く、真っすぐ、跳ね返すように見つめ返すと、ヤマさんは口端の笑みを深くした。
「その意気だ」

さあ、休憩は終わりだ。
変わらずにこの場所にある想いに手を伸ばすように、俺は夏の陽射しの中へと踏み出した。


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