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雪に埋もれた約束。1(青山)

君が同じ気持ちでいてくれたこと、それだけで僕は





異常気象も極まれり、といった風なこの年の冬。
埼玉は例年にないほどの大雪に見舞われていた。
年末から少しずつ街に積もっていった雪は、新年を迎えて三日経った今日も断続的に降り続けていて、止む気配はまだ感じられない。
これでは明日から始まる部活も室内練習になるな。
青木は白いため息を後方に飛ばしながら重い雪雲を見上げた。

わりと大通りに近いこの住宅街は、普段なら行き交う自動車や近所の住人たちの喧騒がうるさいくらいに響いている。
だけど今は自転車一台どころか歩道を歩く人影もない。
綺麗に雪化粧を施された真っ白い道に自分の足跡だけを残して先へと進む。
大通りを横切ってその先に入った細い路地を左に行くと、住宅街には不似合いな石の鳥居を構えた小さな神社が見えてきた。
ここには時代に取り残されたように朽ちかけた祠と、申し訳程度に設けられた賽銭箱しかない。
だけどごてごてと派手な飾り付けがある所よりよほど趣も風情もある。
小さい敷地を上手く使って、夏にはささやかながらも夏祭りが催されたり、新年の参拝客もそれなりで、ご近所の皆さんの評判は決して悪いものではなかった。
さすがに新年も三日を過ぎれば参拝する人も途絶えて久しいけれど。

「タケ」
「あけましておめでとうございます」
「うん」
青木の雪を踏む音に気付いた山ノ井が、鳥居の影から顔を出した。
人込みを嫌って、わざとずらした初詣。
それに加えてこの悪天候、閑散とした境内には見渡さずとも自分たちしかいなかった。
「そんなトコ座り込んで、何やってんすか?」
「雪だるま」
山ノ井は掌に載せた小さな雪だるまを差し出し青木に手渡す。
待ってる間にいっぱい作ったよ、と山ノ井は自分の足元に指を向けた。
手袋をしていない彼の赤い指先を辿るように目線を下げる。
そこには青木の手に載せられたものと同じ無表情の雪だるまたちが山ノ井を囲むように並んでいた。
はあと息を吐きかけた手を擦り合わせて、山ノ井は楽しげに笑う。
「手袋くらいしてください」
「忘れちゃった」
青木は手袋を外すと、指先と同じく赤くした頬に浮かべた山ノ井の笑顔に触れた。
「うぉ、あったけー」
山ノ井は肩を縮こまらせて青木の手に自分のそれを重ねて幸せそうに目を細める。
二人の手の熱はそうすることで少しずつ溶け合っていく。
やがてそれがどちらのものかも分からなくなった頃、山ノ井がついと目を上げた。
「お参りしよっか」



ガラガラと鈴を鳴らして、二人並んで手を合わせる。
青木は鈴の音が耳の奥から消えると、ゆっくりと目を開けた。
正直、神頼みなんてのはガラではない。
ただ、形だけの祈りを捧げただけだった。

こんなんじゃいくら賽銭を投げ込んだって、意味ないだろうな。

そんな事を浅い意識の上に滑らせながら横を見る。
隣では山ノ井がまだ手を合わせ続けていた。
僅かに頭を垂れ、瞼はまるで時を止められたように静かに伏せられたままだった。
穏やかな、けれどいつになく真剣な横顔を青木は眺める。
浅く吐き出される白い息の向こうでは、更に真白の雪が変わらず降り続いていた。


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