[携帯モード] [URL送信]
怪事件発生


そのお客さんは喜緑江美里さんという名前であり、白いワンピースの似合いそうな(何を言っているんだ俺は)、大人しく控えめで、清楚な二年生だった。
いつものメイド服にはさすがに着替える暇もなく、この空間で唯一異質なのは着替えが終わった名前のみだ。一瞬喜緑さんは驚いていたが、すぐに慣れた。随分順応の早い方だ。

「するとあなたは」

上級生だというのにまるで自分が上の立場にいる、そんな態度でくるくるとペンを回す、さながら面接官のようなハルヒは喜緑さんに問いかける。

「我がSOS団に、行方不明中の彼氏を探して欲しいと言うのね?」

唇の上にペンを乗せ(恐らく笑い出したいのをこらえるためだと思う)、片目を瞑ったハルヒに喜緑さんは視線を湯呑みから外さないまま「はい」と答える。
隣の名前に視線を滑らせると、名前はにやにやと笑っていた。その怪しい笑顔はともかく、お前が笑って居てくれて嬉しいよ。今回はそこまで深刻な事件ではなさそうだ。
なんて思っていると、そんな俺の平和な脳みそを脅かすかのように、静かに喜緑さんが呟いた。

「彼がもう何日も学校に来ないんです」

笑いを抑えるためかボールペンの尻をかじるハルヒに、俺は不衛生だからやめろという言葉を急いで飲み込んだ。
話を聞けば、彼女は彼女なりに彼氏の身辺を調査したという。電話しても出ない、家に行っても鍵がかかっている、おまけに一人暮らしだと来た。それで、彼氏の両親が外国…ホンジュラスなどという場所にいるという事実を知り、朝比奈さんが目を見開く。

「部屋にいる気配もなくて。夜中に訪ねても真っ暗でしたし。わたし、心配なんです」

なんだか、用意された原稿をそのまま読んでいるような口調だった。隣にじっと立っている名前が、うずうずと長門に視線を送っている。長門?何故、長門。長門は珍しく本から視線を剥がし、喜緑さんを見ていた。さめざめと泣くように顔を手で覆う喜緑さんに、さらにハルヒは情報提供を依頼する。
喜緑さんの口から飛び出たその彼氏、とやらの名前に、SOS団員全員がきょとんと首を傾けた。名前に覚えが、ないでもない。

「誰だっけ?それ」

不躾に言い放ったハルヒに、気にした様子もなく喜緑さんは返答した。

「SOS団とは近所付き合いをしているように言っていましたけど」

「ご近所さん?」

「彼は、コンピュータ部の部長を務めていますから」



前*次#

5/21ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!