雪山到着
非常に複雑な気持ちになりながら列車を降りる。長い間(と言っても数時間程度だが)列車に揺られていた体は、列車を降りてからもなんだか揺れているような気がした。
「眠い…眠いよ…」
「我慢しろ。歩けるか?」
頭を押さえながらつぶやく名前の背中をたたいてやる。列車に酔ったせいで足元がフラフラしていたのかと思ったが、ただ単に眠かっただけのようだ。
古泉が苦笑を浮かべながら、はしゃぐ妹にひきずられている。長門は歩きながら文庫本を開いて目を通すという荒技を見せたが、ふいに何かに気づいたように目を瞬かせて、すぐに本を閉じた。
「……あ」
名前の小さな声に気づいて顔を上げれば、いつか見た顔がふたつ。その背景は空の青と、白い雪。
「ようこそ。お待ちしておりました」
顔に深い皺が刻まれているが、それがさらに彼の渋みを前面に押し出している気がする。ええと、名前はなんだったか。新川さんだったと思うのだが、違ったら恥ずかしいから声には出さないでおこう、というセコい考えをしながら会釈をしておく。
新川さんの挨拶に続くように、隣にいた小さい女性が頭を下げる。
「長旅お疲れ様です。いらっしゃいませ」
いったい彼女が何歳なのかはわからないが、新川さんと並んでみたらまるで親子のようだな。いや、そこまでいうと失礼か。
「鶴屋さんは初めてですね。こちらが僕のちょっとした知り合いで、旅行中身の周りの世話をお願いすることになっている、新川さんと森園生さんです」
俺がほとんどどうでもいいことを考えていると、古泉が急にしゃしゃり出てきた。そういやこの人たちも機関の人間だったな。各々古泉の説明に続き、自己紹介をして頭を下げる。頭を下げるタイミングがぴったり同じで一瞬目を瞠った。
しかし、こんな寒い雪山で上着も着ずに立っているとは、彼らはいったい何者なんだ。各々その服の下に大量のホッカイロでも詰めてるのか。またしても俺がどうでもいいことを考えていると、後ろに立っていたはずの鶴屋さんがいつの間にやら俺の前に立っていて、ぶんぶんと鞄を振り回し始めた。
「やあ!こんちはっ。お二人さんキマってるねっ!古泉くんの推薦なら疑いようがないよ、こっちこそよろしくっ。別荘も特にかまわず、好きに使っちゃっていいからねっ!」
鶴屋さんの振り回した鞄が恐ろしいスピードで回転しているので、一応名前の肩を引っ張って後ろに下げておいた。しかしあの鞄、結構大きくて重たそうなんだがよく持てるなあ。半ば感心してしまう。
妹は朝比奈さんの後ろからこっそり新川さんと森さんを盗み見て、森さんのメイド姿に気づいた瞬間ぱっと眼を輝かせた。
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