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布の持ち主


もうどのくらい時間が経っただろうか。ゆらゆら揺れる列車の音が耳をくすぐる。
なんだか妙に肩と胸と腹、ようは上半身の表側があたたかいような……気がするにはする。
ゆっくり瞼を開いて窓から外を見てみれば、先ほどまでの景色とは違ってすっかり田舎になっていた。
さすがに列車内で寝ると体の節々が痛い。上体を起こして軽く腕を伸ばすとパキパキと音が鳴った。
バサ、と短い音がして膝の上に何かが落ちる。

「あ?」

ゆっくり見下ろせば太股の上に長い布。つまみ上げて裏表を確かめてみるがやはりただの布。どう見ても布。
ふわふわの素材で肌に触れてもちくちくしない。こりゃいい布だ、じゃなくて、こりゃなんだ。

「名前さんのマフラーですよ」

ふいに声が聞こえて顔を上げると、古泉がこちらを見て微笑んでいた。古泉、と名を呼ぼうとして口を開くと、古泉はにこやかな口元に人差し指を持って行く。
何を意図しての行動かと思ったら、古泉が視線を横にずらした。従うわけではないが視線を横に持って行くと、思った以上に近い距離に名前の横顔。うお、と声を上げそうになるのをなんとかこらえて口を押さえる。

「あなたが寝られてから少し経って、名前さんも寝てしまいましてね。その前に、あなたが風邪を引いたらいけないからと」

よくよく見れば確かにマフラーだな。幅広で、シンプルなデザインのマフラー。
一瞬喜んだものの、ふと我に返る。いやいやいや、俺にかけてどうする。お前が風邪引くほうが大問題だろうが。

「ご心配なく。僕の上着をかけておきましたから」

何を勝手に俺の心を読んでいるのか。にやにやとむかつく笑顔を浮かべる古泉を睨みつけ、隣に視線を向ける。名前の体にかかっている上着を取り除いてやろうかと思ったが、あまりにあからさますぎたのでやめた。

「失礼ですが」

「なんだ」

「鏡をお貸ししましょうか」

「は?」

「いえ、顔が」

謎の言葉とともに鏡を手渡される。とりあえず顔を見てみたら驚くほど眉間に皺が寄っていた。あからさますぎる。



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