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暇な猫


その後は前回語ったとおりである。長門の家で二次会をするかという話も持ち上がっていたが、結局その場で解散し、家に帰り、……というわけだ。その翌日にあった出来事であるとか、そこらへんの俺の情けない事情は再び語ることはできないので各々回想して欲しい。
クリスマスが終わって、今日の三十日になるまで、部室の大掃除をしたり中学の旧友から電話を受けアメフトの試合を見に行ったりとしていたが、これといって特筆するべきこともなく年の瀬を迎えることとなり、今に至るというわけだ。
新年を迎えるにあたって、懸念事項が一つ。成績である。俺を予備校に放り込みたくてうずうずしているらしい母親をどう説き伏せるか、日々頭を悩ませているところだ。
これが理不尽なことに、年中遊びほうけているハルヒは学業という学業全般が優秀。古泉も、詳しくは知らないが、期末テストの結果は非常によく、秀才としか評価できないレベルだった。未来がどんな風に勉学を行っているのかはわからないが、朝比奈さんも見た目どおり真面目に授業を受けているようだし、長門の成績なんか語るだけ無駄というものだろう。名前だって俺と同じ家に住んでおり、俺と同じ生活リズムで暮らしていて、俺と同じように遊びほうけているにも関わらず好成績をキープしたままだ。どういう理屈だ。

差し当たっての問題は冬の合宿であったため、その勉強についての問題はぺっと捨てさせてもらうことにした。とりあえず今成功裡に終わらせなければならないのはこれだからな。優先順位ってやつだ。
と言うわけで、俺たちはこのスキー場に来ているのであった。早朝に出かける俺をひっ捕まえて妹がついてきたのは誤算だったがどうしようもない。
……大変だった。本当に大変だった。念には念を入れて母親に口止めしていたにも関わらず、朝っぱらから用意をしていた俺の部屋にねぼけて入ってくるという神がかり的な偶然により、必要もないのに覚醒してしまったというわけだ。今回の旅行で行われる仕掛け殺人劇に猫が必要だと古泉に言われたため、シャミセンを猫用キャリーに入れているのを見つけられ、言い訳もしようがなかった。勿論その後、旅行道具一式を見つけられてからついていくの一点張り。おまけに名前に泣きつく始末、どれだけダメだと言っても結局ついてきやがった。

「そうお気になさらず。一人増えるくらいなら余裕ですよ。ましてや子供料金、さして予定は狂わないでしょう。ここまで来て追い返すのも忍びないですし、皆さんが了承しているのですから構いませんよ」

泊まる部屋とかスキー道具とか、そういった準備をしなければならない古泉も、そう負担には思っていないようだったので一安心と言ったところか。
行きがけの列車の中でもきゃいきゃいとやかましかったが、それなりに皆のテンションを盛り上げてくれていたようだからよしとしようか。
女グループは座席の向きを変えて向かい合う形にし、UNOをやっているようだった。途中から手札が少なすぎると面白くないから、と言って名前が辞退してきたので、俺と古泉と名前でババ抜きを始める。古泉と二人きりでババ抜きをしろと言われたらむなしくなることこの上ないが、三人ならまだましだろう。
古泉が通算四回目の負けを迎えて、カードをシャッフルしていたとき。ふいに足元のキャリーバッグがごそごそと音を立て、シャミセンが隙間からヒゲを出してきた。

「にゃ」

にゃ、じゃねえよ。出てくるな、という意味をこめてヒゲを指先でつついてやると、一時は引っ込むもののまたすぐ出てくる。普通の猫に比べると随分おとなしく、手のかからない猫なのだろう。だからたまには構ってやるが、今はダメだ。列車の中なんだぞ。

「シャミセン、暇なの?」

古泉からカードを配られた名前が手札を整えながら呟いた。またにゃあ、とシャミセンが鳴いて、ふうんそうなの、と名前が言う。会話をするな。

「もうちょっと我慢してろ。着いたら新品のカリカリをやる」

ヒゲをつつく名前と一緒にキャリーを覗き込み言い聞かせると、納得したように鳴いてまたおとなしくなった。本当に聞き分けのいい猫だな。



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