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スキー体験談


鶴屋さんと椎茸争奪戦を始めたらしいハルヒと、それを楽しそうに見守る朝比奈さん、一人我関せずといわんばかりにもくもくと春雨を口にしている長門を見ながら、ついっと視線を横にずらす。
どうやら雪が降り始めたようだった。ちらほらと、目を細めれば薄暗い外に白い何かが見えるくらいのレベルだが、確実にその白い何かは雪だ。発泡スチロールが降ってくるわけあるまい。
どうせ降るならもっと威勢よく降れよといわずにはいられない量だったが、それでもクリスマスイブに雪が拝めるというのは何か嬉しいなと珍しくも思いながら、視線を元に戻せば古泉がこちらを見て笑っていた。

「旅行先の山に行けば、イヤと言うほど雪遊びが出来ると思いますよ」

ああそうかい。別にそんな、雪遊びを心待ちにしていたわけじゃない。

「それは失礼しました。ところで、スキーとスノボ、どちらがいいですか?用具の手配も僕の仕事なのでね」

「……スノボはやったことないな」

ほとんど気の入っていない返事をすると、古泉はそうですか、ととりあえず納得したように頷いて視線を横にずらす。これまた静かにお茶を飲んでいた名前が顔を上げて、なに?と言わんばかりに小首をかしげた。

「名前さんはどちらがよろしいですか?」

「え?私?あー、私もスノボはやったことないなあ」

「ていうかお前スキーできるのか」

向こうの世界でこいつがどんなことをしてきたのかとか、そういった経験を俺は知らない。スキーをするこいつもなんだか想像できないが、口ぶりからして一応の経験はあるのだろう。
案の定名前はこちらを向いて、

「あるよ!学校でさ、クラスの皆で旅行行くじゃない?それで、1回かそのくらいなら」

へえ。まあ、相当できるというほどでもないわけだな。
ちなみに俺だって言うほどできるわけじゃない。中学のときにいくらかやったっきりだな。長いこと続けないと体が動きを忘れてしまうという話はよく聞くから、きっと今の俺はほとんど素人に戻っているに違いない。

「スキーなら、コツを覚えれば普通に滑れる程度にはなるから、そんなに気負う必要ないんじゃない?」

「さすがに、お前らの前で派手に転ぶのは避けたい」

「そんなこと……別に笑ったりしないよ」

からから笑った名前の肩越しに、鶴屋さんがニヤニヤとした笑いをこちらに向けてきた。名前は俺を見ているから、当然後ろに鶴屋さんがいることはわからないし、おまけに彼女が相当嫌な類の笑顔を浮かべているなんてわからないだろう。
しかし俺が長い間黙り込んで、かつ後ろを見ていることが気になったのだろう。振り返った名前がビクンと肩を震わせて短い悲鳴を上げる。

「つつ、鶴屋さん何してるんですか!」

「あっは、ごめんよっ!なーんかいい雰囲気だったからさっ」

椎茸争奪戦は結局どちらが制したのだろう、確実にハルヒが上機嫌な顔をしているからハルヒだろうが、なんとなく鶴屋さんがハルヒに譲ってやったような気がしてならない。
いや、そんなどうでもいいことを考えてる場合じゃない。俺は鶴屋さんともう一人、無駄にニヤニヤ顔を保持している古泉ににらみをきかせると、鶴屋さんにいい雰囲気って何ですか全く、とぼやく。酔っ払いの絡みみたいだな。ていうか第一スキーの話をしていていい雰囲気も何もないだろうに。



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あきゅろす。
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